トランプ大統領の登場で世界中に波紋が広がっているが、日本では少数与党の石破政権の誕生で政界全体が混乱の渦に巻き込まれている。その自民党、昨日都内で党大会を行った。NHKよると石破総理は冒頭の挨拶で「野党の3年3か月の間、自民党はどうあるべきか徹底的に話し合った。勇気を持って真実を語り、あらゆる組織の声に耳を傾け、協議して決断する政党でありたい」と述べている。総裁選挙から総理就任の経緯を目にしているせいか、この人の発言を聞くと最近は「言葉だけが踊っている」との印象を受ける。総裁就任直後の手のひら返しは置くとして、高額医療費の個人負担上限拡大法案をめぐって二転三転した総理の判断を見ると、言葉が持っている説得力がほとんど感じられない。「勇気を持って真実を語り」はまだ良いだろう。健康保険財政の部分的な赤字を埋める、それが勇気だと言っている。だが、部門別の赤字にこだわって財政全体の問題は解決するのだろうか。
総理は就任して少なくとも3回ぐらいはこの問題を自分の頭で考える機会がったはずだ。最初は予算編成の過程だ。この段階でどういう判断を示したのか分からないが、国民に寄り添う総理なら当然この法案の与える影響は理解できたはずだ。それにゴーサインを出しているわけだから、勇気を持って高額医療で命を保っている患者を切り捨てたことになる。患者の命よりも部分的な財政の健全化を優先したのだろう。2度目は衆議院での論戦が始まり、がん患者の皆さんと対面した時だ。この時にせめて「一時的に凍結」の結論を出していれば多少は救われただろう。しかし、この時も患者の声に配慮してチョビット患者負担を軽減しただけ。3度目は参議院での審議。ここでも野党から厳しく批判された。それを受けて政権内部で協議したのだろう。来年8月以降の実施は凍結し、今年の年末までに全体的制度のあり方について結論を出すと2度目の譲歩を行なっている。制度維持に向けて患者負担を引き上げる方針は、将来の患者のためでもあると、なんとも奇妙な説明も行なっている。
この間衆院では公明、維新と合意の上で予算案を修正し、成立にこぎつけている。そして参議院での審議中に突如3度目の方針変更を行って、法案の凍結を発表したのである。少数政権であり党内基盤も脆弱な石破政権。方針転換が総理の一存で実現できるほど簡単ではないことは理解できる。だが総理が決断しなければ誰が決断するのだろうか。そして「協議して決断する」までの時間があまりにも長すぎる。政治的な決断を下す時間は世界中でどんどん短くなっている。時間がかかったことにより修正した予算案の再々修正も必要になるだろう。公明・維新はそれでも無条件で賛成するのだろうか。いくら少数政権とはいえ国民民主と維新を天秤にかける手法だけでは、国民の信頼など得られるはずもない。来るべき都議会と参院選挙に向け総理は「わが身を滅して総力を尽くしていく」、「自民党のためではなく、国家国民のために」と力んでみても、国民はついてこないだろう。