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中国湖北省武漢の武漢ウイルス研究所の研究者らが2月、ヒトに感染する可能性がある新たなコロナウイルスがコウモリから検出されたとする論文を学術誌に発表した。論文では「現時点でヒトへの感染は確認されていない」として平静を呼びかけている。ただ、武漢ウイルス研究所はCOVID19の起源を巡る「研究所流出説」で疑惑の目が向けられている施設。今後の拡大などを不安視する声が上がる。
研究チームに名を連ねた「コウモリ女」
発表されたのは、コウモリ由来の新たなコロナウイルス「HKU5―CoV-2」。過去に中東で流行した中東呼吸器症候群(MERS)と同じ系統のウイルスで、COVID19と同様にヒトを含む哺乳類のタンパク質と結合し、細胞内に侵入できるという。
発表したのは、広東省広州や武漢の中国科学院傘下組織や大学の研究者でつくるチーム。チームを主導した一人には「バットウーマン(コウモリ女)」の異名を持つ武漢ウイルス研究所の石正麗氏も含まれる。コウモリ由来のウイルスの研究者で、COVID19の流行を巡って度々、研究所流出説を否定する発信を行ってきた人物だ。
新たなコロナウイルスについて、研究チームはヒトに感染する可能性は認めつつ、感染を引き起こすウイルス結合の効率はCOVID19ほど高くないとしており、感染拡大の危険性には触れていない。米疾病対策センター(CDC)もCNNテレビ(電子版)の取材に「現時点で公衆衛生に懸念を抱かせる理由はない」とコメントしている。
「感染性を高める実験」への懸念漂う
だが、パンデミックの可能性がゼロだと断定されたわけではない。
英紙テレグラフ(電子版)は2月26日、論文の結論部分にウイルス株の「さらなる調査」や、ヒト遺伝子組み換えマウスを用いた実験の必要性が提案されていることに言及。研究チームが今後、さらに追加で「感染性を高める実験」を行う恐れがあるとして「不吉だ」と指摘した。
COVID19の「研究所流出説」を唱えてきた米ブロード研究所の分子生物学者、アリーナ・チャン氏は同紙に対し、論文の結論に書かれた追加の実験は「COVID19のパンデミックの引き金になった可能性がある実験と類似している」と懸念を示した。
交流サイト(SNS)では「COVID19は何度も変異して違う型が発生して感染が拡大した。なぜ今回だけ危険ではないと言い切れるのか」などと不安視する声も上がっている。
米で支持増える「研究所流出説」
COVID19の起源を巡っては、動物を介して人に感染したとする「自然発生説」と武漢ウイルス研究所からの「研究所流出説」が議論されてきた。自然発生説では、コウモリ由来のコロナウイルスが武漢の海鮮卸売市場のタヌキを「中間宿主」として感染を拡大させた、との説がある。
世界保健機関(WHO)は21年、武漢での現地調査後に自然発生説を有力視していたが、後にテドロス事務局長は研究所流出説を排除するのは「時期尚早」だと態度を変化。24年末には中国に改めてデータと調査対象へのアクセス機会を求める声明を出している。
米国では最近、研究所流出説を支持する動きが相次でいる。米下院特別小委員会は24年12月、武漢ウイルス研究所の事故が起源とする最終報告書を出した。ウイルスが自然界にない特性を持っており、19年秋に複数の同研究所職員がCOVID19に似た症状を発症していたことを根拠に挙げ、「自然界で発生したのならすでに証拠は表面化しているはずだ」とした。
トランプ政権、中国追及の姿勢
米中央情報局(CIA)も今年1月、「確信度は低い」とした上で、研究所流出説が自然発生説より有力だとの見解を出した。トランプ政権で新たに就任したラトクリフ長官は、優先事項の一つに「パンデミックの起源を公に評価することだ」として中国側を追及する姿勢を見せている。
武漢ウイルス研究所はパンデミック前から、雲南省で採取したコウモリ由来のコロナウイルスのサンプルを多数保有していたとされる。職員が適切な防護服を着ていなかったなど、ずさんな安全管理も指摘されている。COVID19の最初の症例は研究所の近くで発見されており、疑惑の的となってきた。
中国政府は研究所流出説を一貫して否定。「中国は多くのデータと研究結果を共有してきた。これ以上調査は必要ない」としてWHOの追加調査も拒否している。中国が国際社会の要請に誠実に応じていない現状では、新たなコロナウイルスの「安全性」への疑問が解消されることも難しそうだ。(桑村朋)