連日続くトランプ関税の大騒動の中で、びっくりするニュースが飛び込んできた。トランプ大統領が日本製鉄のUSスチール買収問題に関して、対米外国投資委員会(CFIUS=The Committee on Foreign Investments in the United States、シフィウス)に対して再審査を命令する文書に署名したというのだ。審査期間は45日。バイデン前大統領が買収禁止命令を出し、後任のトランプ大統領も投資は許可するが買収はダメと通告した案件である。その案件を再審査するというのだ。NHKは「専門家によりますとCFIUSが一度審査を終えた案件を再審査するのは極めて異例です」と解説する。願わくは専門家とは誰か、はっきり名前を出してもらいたい。この辺がNHKに限らず日本メディアの甘いところだ。責任を曖昧にしていると言ってもいい。それはともかく、尋常でない事態が水面下で進行しているようにみえる。
NHKは「バイデン前政権のもとで計画を審査したアメリカ政府のCFIUSが全会一致に至らず、判断を委ねられたバイデン前大統領はことし1月、国家安全保障上の懸念を理由に買収計画に対する禁止命令を出していました」と、これまでの経緯を説明する。後を継いだトランプ大統領は、2月に行われた石破総理との首脳会談で「投資は許可するが買収は認めない」と前政権の方針を引き継いでいた。首脳会談の席で石破総理は「この案件は買収ではなく投資だ」と説明している。この発言について筆者は当時(2月10日付)この欄で「個人的には、石破総理がトランンプ大統領に『大幅に譲歩した』としかみえない。それだけではない、日米の経済関係にも大きな“禍根”を残した」と批判した。総理は「どちらかが利益を得るというような一方的な関係にならないことを大統領との間で強く認識を共有した。大きな成果だと考えている」とも述べていた。
いまさら経済問題に“鈍”な総理を責めても仕方ない。この時点で買収できないだろうとの印象を強くした。それが再審査というのだから驚く。いかにもトランプ氏らしい“手のひら返し”だ。日鉄は「合併に関する審査を改めて行うよう指示したことに感謝」とコメントしている。U Sスチールも「アメリカの鉄鋼業への新たな、そして歴史的な投資を実現するための取り組みとして重要だ」と評価する。結論がどうなるか、現時点ではまったくわからない。だが、否応なく期待感は高まる。消えかけた買収計画だ。どんな形であれ復活して欲しいとも思う。逆風吹き荒れる状況の中で「買収が原点」と主張し続けた、日鉄幹部の粘り強い交渉力に敬意を評したい。やっぱり「鉄は国家」だという気がする。買収が実現すれば経営責任をはっきりさせるという点で、日米の経済関係に新たな展望を切り開けるのではないか。関税騒動の渦中だから余計に“共存”の意味を問いたくなる。
