▽【米国市況】株下落、関税巡る米中の応酬で荒い動き-円一時145円台

Rita Nazareth

  • S&P500種は一時上昇も下げに転じる、弱気相場入りの瀬戸際に
  • 2年債利回り低下、利下げ観測-円は対ドル一時145円97銭に上昇

8日の米株式相場は下落。関税を巡る米中間の応酬が重しになった。4営業日連続で大きく揺れ動く展開となり、S&P500種株価指数は弱気相場入りの瀬戸際まで下げた。

株式終値前営業日比変化率
S&P500種株価指数4982.77-79.48-1.57%
ダウ工業株30種平均37645.59-320.01-0.84%
ナスダック総合指数15267.91-335.35-2.15%

  S&P500種は一時2022年以来の大幅高となっていた。中国に最大104%の関税を賦課するというホワイトハウス当局者の発言を受けて、ボラティリティーの早期収束期待は打ち砕かれた。中国の李強首相は、同国には外部からのネガティブショックを「完全に相殺する」政策手段が十分にあると表明した。

Trump Tariffs Drive US Tech Shares To Brink Of Bear Market
ボラティリティーに見舞われるウォール街Photographer: Michael Nagle/Bloomberg

  トランプ米大統領が2日に世界的な相互関税を発表して以降、S&P500種は10%余り下落している。

  リサーチ・アフィリエーツのクエ・グエン氏は「こうしたボラティリティーは、『交通のルール』あるいは目指す『目的地』さえ誰も知らないという新たな状況を反映している」と指摘。「投資家が期待をリセットするまで、あるいはこうしたルールや目標を明確に理解するまで、市場は期待と恐怖の間で揺れ動き続けるだろう」と述べた。

  トランプ氏はこの日、韓国の大統領権限を代行する韓悳洙首相と電話会談を行い、貿易を巡る韓国とのディールは「順調にみえる」と述べた。包括的な関税措置の発動を控えて主要同盟国との交渉を進める一方、中国との土壇場での合意成立への期待は遠のいている。

関連記事:トランプ氏、関税で友好国との交渉優先-中国への104%賦課は秒読み

  米サンフランシスコ連銀のデーリー総裁は、通商政策の変更に伴う影響を見極めようとする中、政策金利の調整を急ぐ必要はないとの考えを示した。

  株式相場は低い流動性やニュース主導のアルゴリズム取引を要因に、特に荒い値動きになりやすい状態だ。ゴールドマン・サックス・グループのトレーディングデスクによれば、S&P500種先物における市場の出来高と流動性のギャップは現在、同行のデータで過去最大となっている。

  インタラクティブ・ブローカーズのチーフストラテジスト、スティーブ・ソスニック氏は「これがボラティリティーの非常に高い市場で起こる現象だ。上下両方向にオーバーシュートする」と指摘。「売りが行き過ぎる一方で、反射的な買いや追随も行き過ぎてしまう」と述べた。

米国債

  米長期債の利回りは上昇。この日実施された3年債入札の需要が低調だったことなどが背景。今週は10年債と30年債の入札も予定されている。

  利下げ観測が高まる中、2年債利回りは低下した。

国債直近値前営業日比(bp)変化率
米30年債利回り4.76%14.23.07%
米10年債利回り4.29%10.82.57%
米2年債利回り3.72%-3.9-1.05%
  米東部時間16時57分

  ただ、市場の動きは相対的に落ち着いており、トレーダーに一定の安堵(あんど)感をもたらした。トランプ大統領に関税で妥協する意思があるのか明確な見通しが立たない中、米国債のインプライドボラティリティー(予想変動率、IV)の指数は2023年10月以来の水準に上昇している。

  ブラウン・ブラザーズ・ハリマン(BBH)のシニア市場ストラテジスト、エリアス・ハダッド氏は「市場は目まぐるしい展開が過去数日続いた後、やや落ち着きを取り戻した」と指摘。「とはいえ、絶え間なく変化する米国の関税方針と、それに対する報復措置の可能性が生み出す不確実性は、引き続き世界経済への大きな打撃となっている。リスク資産のリリーフラリーは短命に終わる可能性が高いというのが結論だ」と述べた。

  フューチャーズ・ファースト・カナダのアナリスト、リシ・ミシュラ氏は「市場はかなりの痛手を負った」と指摘。「相場の振れが非常に急速だったが、ボラティリティーが極めて高いことを除けば、市場の機能そのものに問題があるとは思わない」と話した。

Implied Volatility Surges in US Bond and Stock Markets

外為

  外国為替市場ではドルが広範に下落。米国は中国に104%の関税を賦課するというホワイトハウス当局者の発言が意識された。円やスイス・フランなど逃避先通貨は上昇した。

  円は対ドルで一時1.3%上げて、1ドル=145円97銭を付けた。

為替直近値前営業日比変化率
ブルームバーグ・ドル指数1269.41-2.15-0.17%
ドル/円¥146.29-¥1.55-1.05%
ユーロ/ドル$1.0956$0.00440.40%
  米東部時間16時57分

  オフショア人民元はニューヨーク市場で、史上最安値を更新した。貿易を巡る米国との対立が激化する中、中国当局が元安を容認しているとの見方から売りが加速した。

関連記事:オフショア人民元が史上最安値-中国が下落容認との見方、関税警戒

  マネックスのストラテジストは、「中国の指導部が関税への対抗手段として講じようとする一つの方法は、自国通貨の価値を引き下げることだ。中国人民銀行はそれを実行することに前向きな姿勢を示している」と指摘。

  その上で、「明日にかけて緊張が緩和することを市場は期待している。提示された関税引き上げに対し、各国がさまざまな反応を示しているためだ」とし、「一部の国は大部分の関税撤廃を検討しているが、中国は報復の意思を示している」と続けた。

  インベスコのアレッシオ・デロンジス氏は「米国の貿易政策が為替市場に著しいボラティリティーを引き起こしている。当社のモデルは短期的にドルに弱気な見方にシフトする可能性が高い」と指摘。「この観点からすると、長期的な為替のバリュエーションはドルが有意かつ持続的な下落サイクルに入る可能性があることを示唆している」とし、「米国が課す広範な関税はこうしたローテーションのきっかけになるかもしれない」と記した。

ドル・円の推移

原油

  ニューヨーク原油先物相場は4営業日続落。米中の貿易戦争激化により、原油需要の先行きを巡る懸念が強まった。

  ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物は、2021年以降で初めて1バレル=60ドルを割り込んで引けた。瀬戸際での合意がない限り、トランプ政権は米東部時間の9日午前零時過ぎに中国製品に対して合計104%の関税を発動する。

  実際に発動されれば、原油の主要輸入国である中国に対する関税措置は格段にエスカレートする格好となる。中国は最後まで闘う用意があると表明しており、現時点で強硬姿勢を崩していない。

  こうした中、足元では原油価格の見通し引き下げが相次いでいる。ソシエテ・ジェネラルは年末までのWTI価格を57ドルと予想。ゴールドマン・サックス・グループは極端なケースでブレント原油が40ドルを割り込むシナリオもあり得ると警告している。

  一方、米石油大手の経営陣はすでにトランプ政権に対して、世界的な貿易戦争が国内の石油生産業者にどうプラスになるのかを説明するよう求めている。

  ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物5月限は、前日比1.12ドル(1.9%)安い1バレル=59.58ドルで引けた。ロンドンICEの北海ブレント6月限は2.2%下げて62.82ドル。

Oil Meltdown Sends Volumes to Record-High Levels | Brent crude lost 17% in four days through Tuesday

  金スポット価格はほぼ変わらず。一時は1オンス=3000ドルを回復する場面もあったが、午後にかけて弱含む展開となった。

  過去3営業日には約5%下げ、2021年以来の大幅安となっていた。  

  今年に入って相次いで最高値を更新してきたが金相場だが、足元では世界的に市場が急落する中で、金も連れ安となっていた。このような極端な市場の混乱時には、他での損失をカバーするために、金の換金売りが出ることがあるためだ。

  金スポット価格はニューヨーク時間午後3時05分現在、前日比3.62ドル上げて1オンス=2986.90ドル。COMEXの金先物6月限は16.60ドル(0.6%)高い2990.20ドルで引けた。

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原題:Stocks Hit by Wild Volatility on US-China Threats: Markets Wrap(抜粋)

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