日米の関税交渉を担う石破・赤沢ラインに、個人的んには当初から深い疑念を抱いていた。それが現実のものになった。トランプ大統領は1日、上乗せ関税の停止期間を延しないと表明。日本に対しては「合意は無理。税率は30%〜35%もある」と言い放った。9日の停止期限を前にした脅しだろう。最終決着がどうなるか、まだわからない。だが、これまでの交渉経緯をみる限り、石破・赤沢ラインの戦略的敗北だ。7回目の訪米となった赤沢氏は先月の29日、関税交渉の米側責任者であるベンセント財務長官に会えないまま、虚しく帰国の途についた。NHKによると同氏は帰国時の記者会見で「日米の立場を改めて確認し、貿易の拡大、非関税措置、経済安全保障面での協力などについて実りある議論を行った」とコメントした。何が実りある議論なのだろう。この人、記者会見のたびに同じことを言っている。

石破総理は「国益を無視して妥協することはない。win-winの関係が成り立つよう最大限の努力をする」と、判で押したように同じ発言を繰り返している。まるで壊れたレコードだ。トランプ氏は「日本も他国と同様に30年、40年もの間、米国との不公正な貿易関係に甘えてきた」と発言している。今回の交渉の裏に隠されている本質的な問題は、長期展望に立った日米間の戦略的合意だろう。石破総理は「日本の国益」だけにこだわった。上乗せ関税の停止期限は9日。きょうを入れて余すところあと7日しかない。赤沢氏の訪米は9日に向けた最後の交渉だったはずだ。にもかかわらず、妥結に向けた前向きな話は一切ない。自動車関税の撤廃を何回も何回も米国側に要求しただけだ。この間、日鉄のUSスチール完全買収があり、日経新聞のフェンタニル輸出に日本が関わっていたとする特ダネ報道があった。にもかからずこの現状だ。これは何を意味するのだろうか。火を見るよりも明らかだ。

9日の期限についてトランプ氏は「延期することも、前倒しすることも自由にできる。できれば停止期限を前倒ししたい」と発言している。言外に漂う印象では、石破政権を完全に見限ったようにもみえる。日経新聞は6月の下旬に「中国はフェンタニルの対米輸出の拠点を名古屋に置いていた」との大スクープを掲載している。岩谷外務大臣はこの報道について、「関税交渉に影響を及ぼすことはない」と断言している。本当にそうなのだろうか。そもそも今回の関税騒動はトランプ氏がフェンタニルを理由に中国、カナダ、メキシコの3カ国に20%〜25%の関税を賦課したところから始まっている。日経報道が事実だとすれば、米国側の対日感情は押して知るべしだ。大局観も戦略観もない対米交渉。米側の責任者であるベッセント財務長官が、赤沢氏を無視した理由が目に見えるようだ。細かいことを言ってもはじまらない。石破総理と赤沢担当大臣、日本を代表するにはあまりにもミスキャストだ。