▽日米交渉に暗雲、トランプ氏が態度硬化-赤沢流「アポなし外交」は不発
梅川崇、照喜納明美
- 一律関税上乗せは9日に停止期限、30%や35%の高関税の可能性も
- 参院選控え正念場の石破政権、「米国と国内世論の板挟みに」と有識者

米国の関税措置を巡る日米交渉は、トランプ大統領が対日姿勢を硬化させたことで暗雲が一段と漂っている。上乗せ関税の一時停止期限となる9日まで残り1週間。赤沢亮正経済再生担当相は協議日程を確定させないまま訪米する「押し掛け外交」を重ねてきたが、目立った成果は得られていない。

赤沢氏は訪米の際、事前に約束を取り付けていない場合が多いと明かす。1日の閣議後会見では、羽田空港を離陸する時点で会談日程が確定していないのがほとんどだとした上で、毎回カウンターパートの閣僚とは会えているため「押し掛け成功率100%」だと強調した。
赤沢氏は先月末、7回目の閣僚交渉のために米ワシントンを訪問。ラトニック商務長官と、対面と電話で計3回にわたって協議を重ねた。その結果、「改めて事務レベルで協議を行うことで一致」したという。次回の閣僚協議のめどは立っていない。当初4日間だった日程を1日延長したが、米側で交渉を主導するベッセント財務長官との協議は実現しなかった。
日本政府は、交渉の進捗(しんちょく)については逐一明らかにしないスタンスだ。ただ、表立って成果が得られないままの状態が続けば、国民や企業の間で失望が広がりかねない。20日には参議院選挙の投開票日が控えている。「ゆっくり急ぐ」との方針の下、赤沢氏が担ってきた石破茂政権の対米交渉は正念場を迎えている。
助言会社アジア・グループ(TAG)の西村凜太郎氏は、日本政府の置かれた状況について「米国の期待と選挙前に譲歩しすぎるなという国内の圧力との板挟みになっている」と指摘した。
合意困難
日米交渉の現状は厳しい。トランプ大統領は1日、日本について「極めて大きな貿易赤字を抱えているため、30%や35%、あるいはわれわれが決める数字」の関税を課すことになるだろうと言明。「合意に至るかどうか分からない。日本と合意できると思えない。彼らは非常に手ごわい」とも述べた。
7回に及ぶ閣僚交渉の末、関税を引き下げるどころか、かえって高い税率を課されるようになれば、交渉失敗とみなされかねない。参院選にも影響を与える可能性がある。トランプ大統領は9日に迫った上乗せ関税の猶予期限を延長する考えはないとも明言している。
4月中旬の初回の交渉では、トランプ大統領が直接赤沢氏に会い、一緒に写真撮影。日米交渉についてトランプ氏自ら「大きな進展」と投稿し、早期合意への期待が高まった。
ところが、2回目以降は停滞感が漂い始める。赤沢氏は協議終了後の取材で、「前進」「進展」「さらに進展」などと、表現を変えながら交渉の進捗(しんちょく)ぶりを語ってきた。ただ、先週後半以降は、トランプ大統領が自動車やコメを引き合いに日本への不満を表明する場面が目立ち、先行きは混迷の色合いが濃くなっている。
政策研究大学院大学の川崎研一教授は日本の交渉戦略について、根拠が乏しいとされるトランプ大統領の「コメ関税率700%」発言などに屈しない姿勢は好感できるとした。一方、日本企業による対米投資の実績をアピールするような「フレンドリーな戦略」は政策分析に基づく合理的な根拠が不明確で、見直すべきだと指摘した。
トランプ政権が導入した関税措置は、自動車や鉄鋼・アルミニウムなど個別分野別に加え、輸入品全てに基本税率10%をかけた上で貿易相手国ごとに異なる税率を上乗せする仕組みがある。現在は上乗せ部分が一時停止されているが、7月9日の期限を迎えると、対日本の税率は24%となる。
石破首相は2日、日本製鉄の橋本英二会長兼最高経営責任者(CEO)と官邸で面会し、日米交渉について「関税よりも投資だということで続けている」と語った。トランプ大統領が許可した日鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収は「非常に象徴的な案件」として、「これから先の日米関係のモデルケースになり得る」と指摘した。
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