▽【米国市況】株・国債が上昇、雇用減で利下げ観測強まる-ドル全面安

  • ADP民間雇用者数が2023年以来の大幅減少、12月利下げは確実との声
  • 円は対ドル一時0.6%高の155円01銭、米国債は各年限で利回りが低下

Rita Nazareth

3日の米株式相場は続伸。雇用市場減速の兆しがさらに示され、米連邦準備制度理事会(FRB)が今年最後となる来週の会合で利下げに踏み切るとの見方が強まった。米国債利回りは低下。円は対ドルで上昇した。

株式終値前営業日比変化率
S&P500種株価指数6849.7220.350.30%
ダウ工業株30種平均47882.90408.440.86%
ナスダック総合指数23454.0940.420.17%
Traders At The New York Stock Exchange As Stocks Extend Tech-Fueled Gains On Rate-Cut Hopes
FRB利下げ観測で米国株は上昇Photographer: Michael Nagle/Bloomberg

  S&P500種株価指数はここ8営業日中、7回目の上昇。構成銘柄のうち約350銘柄が値上がりした。ただ、大型テクノロジー株の大半は下落した。エヌビディアが安い。同社のジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は、米国が規制を緩和した場合でも、中国が同社のH200チップを受け入れるかどうかは不透明だとの見方を示した。

  マイクロソフトは2.5%安。クラウド部門が展開する人工知能(AI)モデルやAIエージェントの取引プラットフォームで企業顧客の需要見通しを引き下げたとの報道が材料視された。その後同社がAI製品の販売ノルマ全体を引き下げてはいないと説明したものの、売り圧力が続いた。

関連記事:マイクロソフト株が下落、AIツールの需要見通し下方修正との報道 (1)

  11月のADP民間雇用者数は前月比で減少した。2023年の早い時期以来の大幅減となり、労働市場の軟化が一段と鮮明になってきたとの懸念が広がっている。11月のISM非製造業総合景況指数は、拡大圏でわずかに上昇し、9カ月ぶりの高水準。一方、仕入れ価格指数は7カ月ぶりの低水準となった。

関連記事:ADP米民間雇用者数、11月は予想外に減少-2023年以来の大幅減 (2)

  FRB当局者の間では、雇用市場の減速と高止まりするインフレの均衡を図る中、3会合連続の利下げに踏み切るべきかどうかで判断が割れている。一方、市場では来週の利下げが広く予想されている。

  LPLファイナンシャルのチーフエコノミスト、ジェフリー・ローチ氏は「12月の連邦公開市場委員会(FOMC)会合では、低迷する雇用市場が焦点になる」と指摘。「今年、雇用市場が目に見えて弱くなり始めてから、労働需要はFRBが利下げに踏み切れるほど弱いと私は考えてきた。今月もそうだ」と述べた。

  ノースライト・アセット・マネジメントのクリス・ザッカレリ氏は「今朝のADP統計は、多くのハト派が主張していることを裏付けている。インフレを懸念するよりも、雇用市場の弱まりに注目する方が重要だという主張だ」と指摘。「来週のFOMC会合で反対票が出る可能性はあるものの、0.25ポイントの利下げが発表されるのは確実だ」と語った。

  一方で、今後の見通しについては一段と不透明感が増すとも同氏は指摘。「最終的にハト派が主導権を握り、来年も複数回の利下げが実施されるというのが当社の見通しだ。ただし、現時点での予想より間隔が空き、利下げ回数が少なくなる可能性もある。そのため新年にかけては強気だが、2026年に入ったら慎重姿勢を取る」と述べた。

S&P500種上昇、利下げ観測で

  5日には9月の米個人消費支出(PCE)統計が公表される。政府機関閉鎖で発表が遅れていた。

  食品とエネルギーを除いたPCEコア価格指数は3カ月連続での0.2%上昇が予想されている。そうなれば、前年同月比では3%をわずかに下回る水準で推移することになり、インフレ圧力は落ち着きつつも根強く、FRBの目標をなお上回っていることを示唆する。

  ネーションワイドのマーク・ハケット氏は、聞き取り調査は弱い景況感を引き続き示唆しているものの、消費者や企業の行動はまったく異なる姿を映し出していると指摘。そのため5日のPCE統計は、調査の回答結果よりも、はるかに重要になると述べた。

  その上で、「基本的には依然として『押し目買い』の相場に見える。マクロ環境は堅調で、テクニカル的にも持ち直している。バリュエーションの問題は大型ハイテク株に限られている」と続けた。

国債

  米国債は上昇(利回りは低下)。11月の米民間雇用者数が減少したことを受け、来週の利下げ観測が強まった。

国債直近値前営業日比(bp)変化率
米30年債利回り4.73%-1.9-0.40%
米10年債利回り4.06%-2.9-0.71%
米2年債利回り3.48%-2.5-0.70%
米東部時間16時25分

  BMOキャピタル・マーケッツの米金利戦略責任者イアン・リンジェン氏は「米国債の強気な基調が形成された」とリポートで指摘。10年債利回りが「4.00%を試す前に、一進一退の展開となる可能性はあるが、短期的には強気の見方を維持している」と述べた。

ADPショック、市場は12月利下げを確実視

11月の民間雇用者数が予想外に減少し、来週のFOMCで0.25ポイントの利下げが決まるのは決まったも同然との見方が広がった

  過去最長となった政府機関閉鎖で公式データの発表が遅れていた間、ADP雇用統計の重要性が増していた。しかし、米労働省が雇用統計の公表を再開する中、その重要性は薄れつつある。次回の雇用統計発表は12月16日に予定されている。

  TDセキュリティーズの米国金利戦略責任者ジェナディー・ゴールドバーグ氏は「結局のところ、市場は非農業部門雇用者数の発表が控えていると分かっている時には、ADPの結果を重要視しない傾向がある」と話した。

  インフレは当局の2%目標を持続的に上回っているものの、米連邦準備制度(FRB)は雇用の下支えに向け12月10日に3会合連続となる利下げを実施すると、債券投資家は見込んでいる。

  来週の連邦公開市場委員会(FOMC)会合に連動した金利スワップはADP発表後もほぼ変わらず、0.25ポイントの追加利下げ確率を約90%と織り込んでいる。

  アメリベット・セキュリティーズの米金利トレーディング・戦略責任者グレゴリー・ファラネロ氏は、この日の相場の反応は限定的だったとし、市場が弱い雇用関連指標を既に予想していたことを示していると指摘。「追加利下げは織り込み済みで、10年債利回りは4%近辺で推移している」と述べた。

外為

  外国為替市場ではドルが対主要通貨で全面安。ブルームバーグ・ドル・スポット指数は9月以来の大幅下落となった。円は対ドルで上昇し、一時0.6%高の1ドル=155円01銭まで買われた。

為替直近値前営業日比変化率
ブルームバーグ・ドル指数1213.07-4.14-0.34%
ドル/円¥155.27-¥0.61-0.39%
ユーロ/ドル$1.1666$0.00410.35%
米東部時間16時26分

  バンク・オブ・ナッソー1982のチーフエコノミスト、ウィン・シン氏は「ADPは過去4カ月のうち3回がマイナスとなった。過去6カ月では4回がマイナスだ」と指摘。「ADPは非農業部門雇用者数と完全に連動するわけではないが、トレンドを捉えている。そのトレンドは今、明確に弱含んでいる」と述べた。

  フォレックス・ドット・コムのファワド・ラザクザダ氏は「今週のデータは市場参加者が既に察していたことをおおむね裏付けている。米経済指標はじわじわと鈍化しており、FRBが12月に利下げを実施するとの市場の確信が今週の材料で揺らぐことはなさそうだ」と話した。

  その上で、仮にADPが上振れしていたとしても、タイミング的にドルには不利に働くとし、「ドルは一段と下落しやすい状況が続く。特に、円のような低金利通貨に対してそうだろう。日本の債券市場は円が上昇することを示唆している」と続けた。

原油

  ニューヨーク原油先物は反発。ウクライナ和平案を巡る米国とロシアの協議が合意に至らず、ロシア産原油への制裁措置が長期化するとの見方が強まった。

  ロシアのプーチン大統領は2日、米国のウィトコフ特使とトランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー氏と会談。ロシア大統領府は協議は「非常に有意義」だったものの、和平案では合意に至らなかったと明らかにした。

関連記事:プーチン氏、米特使と和平案協議-ロ大統領府「有意義」も合意至らず

  米ロがウクライナ和平案で合意すれば、ロシアへの経済制裁が解除され、原油相場の供給過剰懸念が強まる恐れがあった。

  米政府の週間統計によると、先週の原油在庫は57万4000バレル増えた。伸びは米石油協会(API)が示していた248万バレル増を下回り、供給過剰懸念が強まることはなかった。一方、ガソリン在庫は5月以来の大幅増となった。

NY原油先物反発、ウクライナ和平案巡り米ロが合意至らず

今週は狭いレンジ内で推移

  ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物1月限は、前日比31セント(0.5%)高の1バレル=58.95ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント2月限は22セント高の62.67ドル。

  金スポット価格は小幅高。売り買いが交錯する不安定な値動きとなった。

  弱いADP雇用データが12月の米利下げを後押しする内容となり、一時は約0.9%高まで買われた。利息のつかない金にとって低金利環境は追い風となる。

  金スポット相場はニューヨーク時間午後2時39分現在、前日比2.60ドル高の1オンス=4208.45ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物2月限は11.70ドル(0.3%)上げて4232.50ドルで終えた。

原題:Stocks Join Bonds Higher Amid Bets Fed Will Cut: Markets Wrap(抜粋)

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