- 誰が最高の国産AIモデルを構築したか競うコンテスト-期間は1年超
- 審査団、半年ごとに生き残りと脱落判断-27年序盤に勝者2チーム発表

昨年末、ソウルのコンベンションセンターに1000人余りが集結した。気鋭のエンジニアらが最新の人工知能(AI)技術を披露するためだ。韓国のIT企業幹部や投資家にとっては、参加必須のイベントとなった。
会場では、裵慶勲・科学技術情報通信相がネット通販大手クーパンのデータ流出に関する国会公聴会を抜け出し、デモンストレーションの視察に訪れたという話も聞かれた。誰が最高の国産AIモデルを構築したかを競う、極めて重要なコンテストだ。
数万人がライブ配信を見守るなか、スポットライトを浴びて挑戦者が現れるたびに会場は歓声とどよめきに包まれた。これが最後となる者がいることを誰もが知っていた。

ネットフリックスの人気ドラマになぞらえ「AIイカゲーム」とも呼ばれるこの大会は政府主催のトーナメント戦。昨年8月に発表され、期間は1年以上に及ぶ。AI強国を目指す韓国で、そのリーダーを決める狙いがある。ドラマ同様、ルールは容赦ない。参加チームのAI基盤モデルは、科学技術情報通信省の監督下にある審査団が、半年ごとに生き残りと脱落の審判を下す。
審査団は1月15日、外国技術を使用したとされるネイバー・クラウドを脱落させた。同社は韓国IT大手ネイバーが運営するクラウドサービスだ。また、女性リーダーが率いていたNCソフトのAI子会社も、モデルの性能評価に基づき脱落させた。当初、脱落は1チームのみと予想されていただけに驚きが広がった。
科学技術情報通信省によると、LGとSKグループの各子会社と新興企業アップステージが生き残った。同省は次の段階で新たに1チームを選抜して参加させる方針だ。2027年序盤に勝者2チームが発表される。
崇実大学校ソフトウエア学部のパク・チャンジュン助教授は「単なるパフォーマンスのように見えるかもしれないが、韓国の未来を左右する重要なコンテストだ」と指摘する。
国産AI産業の強化
政府の狙いは、競争が技術革新を加速させ、米国や中国勢が支配を強める分野で国産AI産業を強化することだ。当局者によれば、最終的な目標は、ChatGPT(チャットGPT)やディープシーク(DeepSeek)といった世界の最先端モデルに匹敵する、独自のオープンソースモデルを開発することだ。
韓国も、AIの台頭で自国産業・労働力が出遅れることに危機感を抱く国の一つだ。フランス政府もAIプロジェクトに多額の資金を投じ、国内勢を育成することで第3のAIハブになることを目指している。
サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)は、巨額の資本を活用して高度な演算インフラを確保し、「Falcon LLM」など国内モデルに資金を投じている。シンガポール、日本、カナダ、インドなども自国のAI戦略を推進中だ。
韓国当局が国産基盤モデルの構築にこだわる背景には、国内で既にAIが普及していることがある。韓国はChatGPTの有料利用者数で世界最大級の市場だ。また、産業用ロボットの導入状況も世界最高レベルだ。この分野はAI技術によって劇的に変化するとみられている。

昨年7月に就任した裵・科学技術情報通信相は、高度な半導体メモリー、国内クラウド、アプリケーションを全て備える韓国は、「フルスタックAI国家」としてのユニークな立ち位置を強みにできると考えている。
「3位を競う国はいくつかあるが、われわれはその他大勢の一角だとは思っていない」とし、「上位2カ国に挑むことができる、真のグローバルプレーヤーになれる可能性が十分にあると信じている」と強調した。
成否を分ける決戦
参加者にとって、このコンテストはAIへの野望の成否を占う分水嶺(れい)だ。政府は画像処理半導体(GPU)やデータセットへのアクセスを提供しており、勝者となれば、AIエコシステムで多大な影響力と利益を確保する道が開かれる。一方、脱落すれば、GPUへのアクセスを失う。1月15日の結果発表後、ネイバーの株価は下落し、LG関連株やSKテレコムは上昇した。
最も有力視されているのはLG・AIリサーチだ。同社のモデル「K-Exaone」は現段階の総合評価で最高点をマークした。

SKテレコムも、自社モデル「A.X K1」の圧倒的な規模で注目を集めている。パラメーター数は5190億と、ChatGPTの最先端モデルには及ばないものの、K-Exaoneの約2倍で、ディープシークの最新モデルに迫る規模だ。パラメーター数は機械学習における変数の数を示し、数値が高いほど高度な情報処理と推論能力を持つとされる。ただ、膨大な演算能力とエネルギーを必要とする。
新規株式公開(IPO)を目指す創業5年のアップステージも、強力でコスト効率の高い大規模言語モデル(LLM)を投入し、生き残っている。年央に予定される次回審査に向け、政府は近く4番目の参加者の選考に乗り出す。
国産AIの定義
この大会は「何をもって真の国産AIとするか」という論争も巻き起こした。政府は、独自の学習プロセス、データ、アーキテクチャを用いて、最初から最後まで一貫して訓練された基盤モデルの必要性を強調してきた。各チームが世界トップレベルの性能に追い付こうとしのぎを削る中、ゼロからの構築という条件に反し、外国技術を利用したと疑われるケースも出てきた。
この問題は、アップステージのモデル「Solar Open」が中国のモデル「GLM-4.5-Air」に酷似していると競合他社から指摘されたことで浮上した。アップステージはこうした行為を否定し、公開検証を実施。指摘した側は謝罪を迫られたが、疑いの目は他の参加者にも向けられた。
ネイバー・クラウドはアリババグループなど中国勢が公開したモデルのアーキテクチャに似たビジョンエンコーダーや重みを用いていると指摘され、SKテレコムのモデルも同様の疑念が持たれた。

AI開発において既存のアーキテクチャ活用は一般的な手法だ。最先端モデルをゼロから作り上げるには膨大な時間と費用がかかり、多くの企業にとって現実的ではない。メタ・プラットフォームズなど先行企業の研究に多少、依存しているのが実情だ。
ネイバー・クラウドの脱落について、政府当局者は、既存の中国製モデルを一部使用したことがコンテストの要件に抵触したと記者団に説明した。一方、SKテレコムやアップステージについては失格とする理由はないと明言した。ネイバー側は15日、審査団の決定を尊重するとコメントした。
こうした問題がなくても、参加者らは競争を通じて感情が高ぶった状態が続いていると話す。各チームのエンジニアは、データセットの品質チェックやモデル微調整のため、24時間体制で作業に当たっている。
「強い緊張感はあるが、これこそKポップが躍進していく際に経験したことだ」と、アップステージのソン・キム最高経営責任者(CEO)は、Kポップスターを輩出したオーディション番組に例えた。「韓国のAIや科学の分野でも、同じことが起きると確信している」。
似たような経験
自国AIを追求しているのは韓国だけではないが、今回の取り組みは、朝鮮戦争による荒廃の後、官民一体となって復興を遂げた韓国にとってなじみのあるパターンだ。政府は重要産業への資金投入で、貧困にあえいでいた韓国を資本主義の民主主義国家に変貌させた経緯がある。

1968年、韓国がまだ米国の食糧援助に頼っていた頃、朴正煕大統領(当時)はソウルと釜山を結ぶ高速道路の建設を強行した。当時は無謀な空想と一蹴されたが、後に世界最大の造船会社を築く現代グループの創業者、故・鄭周永氏がこれを支持し、国内の工業化を加速させた。
その30年後、金大中大統領(当時)は超高速ブロードバンド網の整備にかじを切り、デジタル大国への道を切り開いた。
李在明大統領は、AIを「次なる大きな跳躍」と位置づけている。昨年11月の予算案施政演説では演算能力、データ、6G技術の展開を含む国家インフラ「AIハイウエー」の構築を表明した。道路やブロードバンドを築いた時と同じような手法で、韓国は再びトップを目指す姿勢を示している。

今回もまた、財閥や有望な新興企業を中心とする民間部門が、国家主導の取り組みの原動力となっている。12月のイベントにオンラインで登場したSKグループの崔泰源会長は、ソブリン(主権型)AIモデルが韓国の未来にとっていかに重要かを強調した。
注目の高さは誇りであると同時にプレッシャーでもあると、SKテレコムの基盤モデルチームを率いるキム・テユン氏は語る。コンテスト開始以来、白髪が増えたというキム氏は、済州島にある実家のミカン畑の収穫の手伝いにも、今年は多忙で行けなかったという。
だがキム氏はこう語る。「これほど重要なプロジェクトに身を置けるのはエンジニア冥利(みょうり)に尽きる。エンジニアにとっての夢だ」と。
原題:Korea Kicks Off AI Squid Game to Compete With US, China (1)(抜粋)
