人工知能(AI)スタートアップ・アンソロピックの登場以来、米国の金融市場では「A I

脅威論」が盛んに議論されている。技術進歩による創造的破壊が起こり、多くの既存企業が廃業に追い込まれるという脅威論だ。こうした議論が金融政策にも波及してきた。FRBのクック理事は24日、「人工知能(AI)の導入によって失業が増加した場合、FRBが十分に対応できない可能性がある」と警告を発した。進歩したAIは、人手で行う作業に取って代わるようになり、必然的に失業者が増えるという見方がこうした議論の背景にある。AIの導入によって企業の生産性は向上する。メーカーを例にとればコストが下がって売り上げが増えるため、業績は好調になる。従業員は解雇され、失業者が増える。クック氏によると「AIが生産性を高め続ければ、労働市場の入れ替わりで失業が増加したとしても、経済成長は力強さを維持する可能性がある。そのような生産性ブームの下では、失業率上昇はスラック(需給の緩み)拡大を意味しない可能性がある」(Bloomberg)と述べている。

失業者が増えれば金融当局は利下げに動く。これが一般的な解釈だ。だが、進歩したAIが広く浸透した社会では、企業の業績は向上する。国家全体で見れば失業者が街に溢れているのに、経済成長率は高くなる。現時点では見たこともないような経済環境の変化が起こるわけだ。こうした中で金融政策はどうあるべきか。失業者の増大に焦点を当てれば利下げになる。だが、経済の高度成長が続くわけだから、インフレを意識した予防的利上げが必要になるかもしれない。クック理事は「AIによる生産性向上の効果がより十分に実現した場合や、労働市場の移行が所得格差の拡大を招き、富裕層が所得においてより大きな割合を得るようになった場合、他の条件が同じであれば中立金利は低下する可能性がある」と利下げの可能性を示唆する。前NY連銀総裁ウィリアム・ダドリー氏は「ベッセント財務長官と次期FRB議長候補のケビン・ウォーシュ氏はそう考えているようだ」と指摘する。

同氏は「(両氏は)AIが生産性を高め、インフレを招くことなく経済の成長余地が拡大する」ため、「FRBは、AIが存在しなかった時代のデータで訓練された予測モデルに頼るのではなく、予想される現象を見越していますぐ金利を引き下げるべきだと主張している」とみる。それが事実ならトランプ大統領は進歩したAIというわけだ。我々はいま過去データに依存して未来を予測している。「予想される現象を見越す」のがAIだとすれば、依存するデータはこれまでとは全く違うものになるのではないだろうか。別の言い方をすれば、進歩したAIはこれまでと同じ「過去データ」で未来を先取りすることができるのだろうか。FRBのもう一人の理事であるウォラー氏は、「私の生涯でこれほどの技術革命は見たことがない」と驚きを隠さない。個人的にはAIがつくる予測モデルは、現在とは全く違ったものになるような気がする。アンソロピックは「正しいAIを作る」と宣言している。利上げか利下げかより、「正しいAI」とは何か、それを論じるのが先ではないか、そんな気がする。