交代要員がおらず、食料や水も不足。GPS妨害によって航行も危険になっている
Alex Longley、Shruti Srivastava、Krishna Karra、Priyanjana Bengani、Jack Wittels
ホルムズ海峡を通れずに足止めされたタンカーで、船員たちはどのような状況に置かれているのか。
この3週間、ある船長は頭上で時折響く爆発音を聞き続けている。200万バレルの原油を積んだまま、ペルシャ湾で停泊が続く。全長300メートルのタンカー上で、バスケットボールをしたり映画を見たりして、戦争から気を紛らわせている。
別の船では、上級士官がアラブ首長国連邦(UAE)の主要港フジャイラで広がる火災を見つめていた。頭上を戦闘機が飛び交う。船がオマーン湾へ戻ろうとした際には、全地球測位システム(GPS)が妨害を受け、レーダーで航行せざるを得なかった。
船員たちは、匿名を条件にブルームバーグの取材に応じた。これらの証言は、ホルムズ海峡の両側で船上に足止めされている推計4万人の船員が直面する苦境の一端を示している。
国際海運雇用者評議会(IMEC)によると、その半数は実質的にペルシャ湾内に閉じ込められている。攻撃の脅威に常にさらされ、電子戦の混乱の中で航行しており、他船の位置を把握できない状況に陥っていることも多い。

世界の海上石油貿易の約4分の1が通過するホルムズ海峡は、事実上の封鎖が続き、世界経済に衝撃を与えている。エネルギー価格は急騰し、アジアやアフリカでは燃料不足が発生。肥料価格も上昇して食料安全保障を脅かしている。
米国は航行再開に向けて各国に支援を要請している。しかし停戦にならない限りは、イランが譲歩し、船舶の自由航行を認める可能性は低い。船員たちは、自らの力ではどうにもならない地政学的・軍事的な力に翻弄されている。
「海運は、外部からは見えにくい大規模な労働力に依存している」と、シナジー・マリン・グループで700隻以上を管理するイェスパー・クリステンセン最高経営責任者(CEO)は指摘する。「こうした局面になると、船員と運航ネットワークが世界貿易に不可欠であることを再認識させられる」という。

ホルムズ海峡、オマーン湾、ペルシャ湾は、国際運輸労連(ITF)と労使の共同交渉グループ(JNG)により「戦時作戦区域」と指定されている。このため、当該海域で働く船員には賃上げなどの追加待遇が認められ、危険区域への進入を拒否して下船することも選択できる。ただし、すべての船がこれらの協定の対象ではない。
石油タンカーの運搬料も急上昇している。中東の石油タンカーの指標は、戦争開始前と比べて1日当たり約20万ドル(約3200万円)上昇。リスクを取る船主にとっては、数百万ドル規模の利益を得られる可能性がある。一方で、海峡通過を目指す船舶の保険料は急騰している。
航行の危険性は明らかだ。先週は、タイ船籍のマユリー・ナリー号が攻撃を受けた。乗組員3人が行方不明で、機関室に閉じ込められているとみられる。海運会社プレシャス・シッピングは、安全対策が強化されたことで、通過できると判断したと説明した。
戦争開始以降、船舶への攻撃で死亡した船員は、少なくとも2人に上ることが確認されている。

通常とは異なり、イラン沿岸のルートを航行することで、ホルムズ海峡を通過したケースも確認された。イランのララク島とゲシュム島の間にある狭い水路を通っていたとみられる。これまでにインドの液化石油ガス(LPG)船2隻、パキスタンのタンカー1隻、イランに寄港していたばら積み船2隻が航行に成功した。イランが一部の船には通航を認めつつ、他の船を足止めしている可能性があると、アナリストは指摘している。
ブルームバーグがAIS(自動船舶識別装置)データを分析したところ、3月1日以降にホルムズ海峡を通過した商船は100隻未満にとどまる。このうち約5隻に1隻は、通過中にトランスポンダー(位置情報を発信する信号装置)を停止していたとみられる。
許可なく通過を試みる場合、リスクは極めて高い。最も狭い地点で幅39キロメートルにすぎない海峡は、両側を山地に挟まれており、沿岸からの攻撃をほとんど察知できない。イラン軍が航路に機雷を敷設したとの報告もある。
こうした危険に対する追加報酬も、不十分だと感じている船員は多い。
匿名を条件にブルームバーグに語った船員によると、10年以上の経験を持つ船長でも増額分は1日100ドル程度にすぎず、若手乗組員では20~30ドル程度にとどまる。フジャイラ行きの船の上級士官は、危険手当は1日68ドル程度だと明かした。
「紛争地域に来てくれる交代要員がいなければ、船主は乗組員を帰すわけにはいかない」
ペルシャ湾内で足止めされている数百隻の船の乗組員にとって、下船したいと思っても選択肢は限られる。航空便が混乱しているうえ、交代要員も不足しているためだ。
「実際には、本国に戻る権利を行使するのは極めて難しい。仮に可能であっても、紛争地域に来てくれる交代要員がいなければ、船主は乗組員を帰すわけにはいかない」と、IMECのフランチェスコ・ガルジウロ最高経営責任者(CEO)は語る。
一部の乗組員は、安全と金銭面との間で難しい判断を迫られている。
現在、ホルムズ海峡周辺にいる船員の半数以上はインド出身だ。ブルームバーグが取材した複数の船員も、いずれもインド出身者だった。船員たちは退避を望んでいるが、帰国便に乗ることができずに足止めされていると明かした。船が接岸できず物理的に上陸できないケースもあれば、上陸に必要な書類を取得できないケースもあった。
相談のホットラインには、問い合わせが殺到している。国際船員福祉支援ネットワーク(ISWAN)の国際業務マネジャー、チラグ・バフリ氏は「船上の人々も家族も不安を抱えている。多くが退避に関する情報を求めている」と語った。
インド政府は船員のビザや移動手段の確保を支援しており、一部の船主は外交的解決に期待を寄せている。ただ、バフリ氏は大半の船員が短期的に退避できる可能性は低いと警告する。「今はとにかく耐え忍ぶ段階だ」と述べた。

足止めされているのはベテラン船員だけではない。
韓国の海洋水産省によると、船上で訓練中だった海洋大学の学生10人もホルムズ海峡に足止めされている。韓国政府は1日4回連絡を取り合っており、現時点で下船を希望する学生はいないとしている。
通過待ちの船上で足止めされた船員は極度のストレスにさらされている。
いつまで続くか見通せない中、物資の節約を始める者もいる。姓を明かさずにクマール氏とだけ名乗った若いインド人船員は、乗組員が砂糖と米でしのいでいると語った。船はイラク沖で停泊しており、淡水も不足しているという。外洋では逆浸透装置で淡水を作れるが、停泊中は泥で詰まりやすく、補給が難しくなる。
ペレイラ氏と名乗った別の船員は、自身を含むインド人4人が湾内の船に閉じ込められていると話した。最近補給を受けたものの、発電機を稼働させる燃料は20日分しかないという。
乗組員は常に、身の危険を実感させられている。クマール氏は「毎晩、耳をつんざく爆発音が聞こえ、家族もパニックになっている。どうすればいいのか。今は絶望的だ」と語った。
「毎晩、耳をつんざく爆発音が聞こえ、家族もパニックになっている」
匿名で取材に応じた船員の一人は、クウェートで貨物を積み込む作業中に20機以上のドローンが頭上を飛行するのを目撃したと話す。港湾当局は安全のため甲板下にとどまるよう助言しているが、実際には甲板の明かりを消したまま、リスクを伴う作業を強いられているという。危険性について繰り返し懸念を伝えても、会社は作業継続を求め、拒否すれば現地要員を投入すると圧力をかけていると明かした。
GPSを巡る攻防も繰り広げられ、危険で航行困難な状況に陥っている。
戦争開始以降、地域一帯でGPS信号の妨害が発生している。船舶航行を混乱させるだけでなく、ドローンやミサイルの標的捕捉を困難にする目的もあるとみられる。
この結果、船舶は自船や他船の位置を正確に把握するのが難しくなっている。さらに、一部の電波妨害は、自船の位置を他の船舶に送信するために用いられるAISトランスポンダーにも影響を及ぼしている。
GPS妨害により、船舶が不自然、場合によっては不可能な動きをしているように見えるケースもある。陸上にいるかのように表示されたり、時速100ノットを超える速度で航行しているように見えたりする。停泊中の船でも、実際の位置から数百キロ離れた地点を発信している場合がある。
多くの船は、トランスポンダー自体を停止しているとみられる。衛星画像とAISデータの分析では、同海域に340隻の船が確認されたが、位置情報を発信しているのは56隻、全体の16%にとどまる。
GPSへの妨害で、船舶が大きく航路を外れているように見える
停泊中の船舶の実際の位置と、位置情報として発信された航跡

船員は現在、地図や目視による確認といった従来の航法に頼らざるを得ない場面が増えている。船長らは、航行そのものが危険になっていると指摘する。
攻撃の多くは夜間に発生する。船員らは夜通し警戒に当たることもあれば、爆撃音で眠れないことも。日の出後にしか休めないため、不安と疲労が蓄積しているという。
ペレイラ氏は「空爆や爆発が続き、大きな音と振動を常に感じている。これまで経験したことのない状況だ。荷物はまとめてある。チャンスがあればいつでも、ここを去るつもりだ」と語った。
原題:Iran’s Hormuz Blockade Leaves Stranded Crews Braving Missiles and Signal Jamming(抜粋)