7日の電撃的な停戦合意の翌日、イスラエル軍がレバノンのヒズボラ拠点へ猛攻撃を加えた。イランは停戦合意違反と主張、米国は大統領と副大統領が口を揃えて「停戦合意にレバノンは含まれていない」と反撃するものの、ホルムズ海峡は実質的に閉鎖されたままだ。米国とイランがともに「大勝利」と主張する停戦合意。どちらが本当の勝者かわからないが、合意から2日たって見えてきたのは、イスラム革命防衛隊(IRGC)を軸としたイランの指導体制が一段と拡大・強化されている事実だ。トランプ大統領の「完全な勝利」発言を、米国民のみならず世界中の多くの人々は信じないだろう。世界最強の軍事力を誇る米国だが、どんなに軍事施設を破壊し指導者を殺害しても勝利は見えてこない。むしろ逆に、イランの非人権的、非民主的指導部の支配力がさらに強化されている。戦争が勃発する前にイラン指導部は、民衆の怒りに満ちた反政府デモを軍事力を使って弾圧した。その強権的指導部の黒い影は、トランプ大統領の戦略なき戦争によって完全に消し飛んでしまった。
ロイターが今朝配信したコラム、「焦点:停戦はトランプ氏の『大誤算』か、イラン体制健在という厳しい現実」には次のような一文がある。少し長いが引用する。「4人の専門家と3人の湾岸政府関係者も、イランは戦争の痛手を吸収しつつ、中核的な権力機構は存続し、幾つかのケースでは逆に強化されていると認めた」とある。その上で、「具体的な事例としては、ホルムズ海峡の支配権に加えて、より暴力的になった政治状況、権限を強めた指導部、確認不能になった核物質、ミサイル・ドローン(無人機)生産や地域同盟勢力への支援継続などが挙げられた。湾岸政府高官は、地域の安全保障やエネルギー供給の構図を形作っているより根深い対立の解消に取り組まなければ、今回の停戦は長続きしない」。なんのことはない。中東を覆っている「根深い対立」を煽っただけだと言っているのだ。対立の根源にあるのはおそらく宗教であり、信念であり、政治権力をめぐる歴史だろう。それを無視して表面的な“破壊”に取り組んだ米国とイスラエル。これは「大誤算」どころか浅知恵でしかない。
一つの例がホルムズ海峡の封鎖だ。戦争が始まる前までこの海峡は国際海峡だった。国連海洋法条約は次のように規定している。「公海又は排他的経済水域の一部分と公海又は排他的経済水域の他の部分との間にある国際航行に使用されている海峡」と。要するに国際海峡は自由に航行できる海峡として国際的に認められているのだ。その海峡が今やイランの管理下に置かれている。イランはこの海峡で通行料を徴収する準備を進めている。停戦合意には「ホルムズ海峡をイランの管理下に置く」とある。イランはこの要求を米国が飲んだと主張している。米国とイスラエルの軍事介入を逆手に取ってイランは、国際海洋条約を歪めようとしているのだ。それもこれも戦略なきトランプ大統領の開戦の結果である。仮に2週間の停戦合意が守られたとしても、この間の交渉で「根深い対立」がどこまで解消できるのか。成り行きを見守るしかないが、トランプ氏とネタニヤフ氏が始めた戦争にはまったく出口が見えないのだ。