作戦の継続か、終結か。開戦判断から続く米イスラエルの思惑のズレとは

Ben Bartenstein

トランプ米大統領が先に下した対イラン戦争開始の決断は、イスラエルのネタニヤフ首相による長年の働きかけが奏功したことを意味する。

  だが、トランプ氏は今や紛争からの離脱を図り、最も緊密な地政学的関係の一つに亀裂が生じつつある。軍事衝突の出口戦略を巡るトランプ氏とネタニヤフ氏の「同床異夢」は停戦協議にも影を落とす可能性がある。

  トランプ氏が7日に2週間の停戦合意を発表してから数時間後、ネタニヤフ氏はその条件に異議を唱えた。イスラエル軍はレバノンへの最新の侵攻で最大規模の攻撃を実施し、数百人が死亡。イランは米国との直接協議が行われる前から、合意が危機にさらされていると警告した。

  トランプ氏によると、同氏からの電話を受けて、ネタニヤフ氏は作戦の規模を縮小することに同意したという。しかしネタニヤフ氏は9日、レバノンとの協議に応じる一方で、同地での戦闘継続の方針を表明した。

  事情に詳しい複数の関係者によると、ネタニヤフ氏はイランとの広範な紛争を終結させるための外交再開に強く反対している。関係者は非公開情報であることを理由に匿名を条件に語った。また、レバノンを当初の合意条件に含める方針について、トランプ氏は7日の発表直前になってネタニヤフ氏に伝えたという。

  トランプ氏は公にはこの問題を巡り、ネタニヤフ氏との見解に相違はないとの立場だ。米国とイスラエルがイランを2月末に攻撃するに至った両者の連携は、ネタニヤフ氏が数十年にわたり歴代米大統領に求めてきた成果だった。

  しかし、世界経済を揺るがし、エスカレーションの恐れもある戦争の終結をトランプ氏が模索する中で、こうした連携にもほころびが顕在化しつつある。

  イスラエル政府の元顧問で、現在は米シンクタンクのランド研究所に所属するシラ・エフロン氏は「これは当初、イスラエルが望んだ戦争だったが、今や独り歩きを始めている」と指摘した。

President Trump Meets With Israeli PM Netanyahu At His Palm Beach Estate
共同記者会見を行ったトランプ米大統領(右)とイスラエルのネタニヤフ首相(2025年12月29日)Photographer: Joe Raedle/Getty Images

  米国とイランが11日にパキスタンの首都イスラマバードで行う予定の直接協議に、イスラエルは参加しない。複数の外交関係者は、広範な合意への道筋は不透明なままで、イスラエルが軍事的エスカレーションから自制に方針転換するかどうかに大きく左右されるとの見方を示した。

  事情に詳しい関係者の話では、トランプ氏は7日の停戦発表直前にネタニヤフ氏と電話で話した。イスラエルは合意交渉に正式には関与しておらず、この電話以外に協議の機会もなかったという。

  西側や中東の当局者によれば、短期的にはイスラエルがレバノンで展開する軍事作戦が、イランとの紛争を長引かせるリスクがあり、トランプ氏が外交路線への転換を図る一方で、拡大する地域的対立に米軍が再び引き込まれる恐れもある。

  レバノン当局の説明に基づくと、イスラエルによる8日の攻撃は事前警告なく行われ、1カ月前の侵攻開始以降の死者は1500人超、避難民は100万人に達している。イスラエル軍は9日、ベイルートの8地区の住民に対し、攻撃に先立ち退避するよう通告した。

  一方でネタニヤフ氏は、親イラン民兵組織ヒズボラの武装解除を主眼に、レバノンとの直接協議に応じることで合意したと明らかにした。

  フランスのマクロン大統領はイスラエルの攻撃について、「停戦の持続可能性に対する直接的な脅威だ」とSNS投稿で指摘した。

  トランプ氏は、2週間の期限内に合意が成立しない場合に備え、米軍に地域駐留の継続を命じている。米当局は今回の作戦で勝利を宣言しているものの、イランの核・ミサイル計画は根絶されておらず、戦争の主要目標は達成されていない。

  イランは世界の原油と液化天然ガス(LNG)供給の約5分の1が通過するホルムズ海峡を完全には再開しておらず、この要衝へのアクセスを制限することで世界経済への圧力を維持している。

  原油相場の急騰とそれに伴う政治的打撃の深刻化を背景に、トランプ氏はホルムズ海峡の管理を将来的にイランと協力して行う可能性さえ示唆した。他方で9日のSNS投稿では、同海峡の石油通過を巡るイランの対応について「非常に不十分だ」と不満を示した。

  西側や中東の当局者によると、米国から重大な譲歩を引き出すことなく、イランがこの新たな戦略的てこを手放すと示唆する証拠はない。どのような妥協がトランプ氏に受け入れられるのかは不明だが、米政権は既にイラン産原油に対する一部制裁を緩和している。

  これに対しネタニヤフ氏にとっては、エネルギー供給で依存していない海峡の再開よりも、レバノンでのヒズボラ攻撃の方がはるかに差し迫った課題となっている。

亀裂再び表面化

  ワシントンでは、当初の開戦判断を形成したのと同じ亀裂が再び表面化している。

  今回の停戦はパキスタン当局者や欧州・ペルシャ湾岸諸国の外交当局との水面下の協議の末に成立。ネタニヤフ氏のほか、トランプ氏の側近であるウィトコフ特使や娘婿のジャレッド・クシュナー氏ら、対立路線へと導いた人々には異例の後退を意味する。

Vice President Vance Visits Israel To Maintain Ceasefire With Hamas
左からバンス米副大統領、ウィトコフ特使、ジャレッド・クシュナー氏(2025年10月21日、イスラエル南部キルヤット・ガト)Photographer: Nathan Howard/Getty Images

  関係者の話では、ネタニヤフ、ウィトコフ、クシュナー氏の3氏は過去数週間、イランの脅威を押し返すため軍事作戦の継続・強化を主張してきた。一方で、ウィトコフ、クシュナー両氏は並行的な交渉には一定の柔軟姿勢を示していたのに対し、ネタニヤフ氏は外交再開に強く反対していたという。

  現時点では、ワシントンではルビオ国務長官やバンス副大統領をはじめとする一段と慎重な立場の方が優勢となっている。バンス氏はウィトコフ、クシュナー両氏を含む代表団を率い、11日にイスラマバードでイラン側と協議に臨む予定だ。

  米中央情報局(CIA)の元職員で、現在はコンサルティング会社ラピダン・エナジー・グループのスコット・モデル最高経営責任者(CEO)は、「トランプ陣営内の亀裂は戦争か平和かという問題ではなく、米国が誰の戦争目的に奉仕しているのかという点にあった」との分析を示した。

  ホワイトハウスのケリー報道官は、「ウィトコフ特使が公に述べている通り、同氏とクシュナー氏は昨年、イランとの交渉について率直な見解をトランプ大統領に提示した。当時、彼らはイランが米国との合意に真剣ではないと考えていた」と説明した。

  その上で、「これは大統領が『エピック・フューリー(壮絶な怒り)作戦』の実行を決断した幾つかの要因の一つであり、この作戦はイランの弾道ミサイル、製造施設、海軍、核兵器保有の野心を壊滅させることに成功した。特使とクシュナー氏はいずれも軍事問題について大統領に助言しておらず、それは国防当局の管轄に属する」と述べた。

  当面は停戦が維持されたとしても、戦争が終結するとは限らない。

  米欧当局者によれば、イスラエルはイランの中核的能力が解体されるまで作戦継続に意欲を示している。一方、打撃を受けつつも強硬姿勢を崩していないイランは、ウラン濃縮能力の放棄を含む米交渉団の強い要求に応じる姿勢をほとんど示していない。このシナリオでは、トランプ氏にとって明確な出口がないまま、対立が続くリスクがあると当局者は警告する。

対イラン攻撃前の状況

  対イラン攻撃に至る前には、イランが核兵器取得寸前にあるとするネタニヤフ氏の主張がトランプ氏の判断に大きく影響を及ぼし、イランとの交渉を担っていたウィトコフ、クシュナー両氏の後押しもあったと、協議について詳しい関係者は話す。

  こうした主張は、バンス、ルビオ両氏や米情報機関が示していた一段と慎重な分析とは大きく異なっていた。これらの分析では、事態のエスカレーション支持派が想定するよりもイラン指導部は強靭(きょうじん)で、紛争拡大は地域や世界に深刻な影響を及ぼしかねないと警告していた。

2026-04-09 - Tankers move to Stait of Hormuz
米国とイランの停戦発表後、中国の原油タンカー3隻がホルムズ海峡に接近

  イランが核交渉に長年の経験を持つ熟練交渉官を送り込んだのに対し、米側のウィトコフ、クシュナー両氏はいずれも投資家で、核分野に関する正式な専門知識を持っていない。実務協議の当初の担当だったマイケル・アントン氏も早期に排除された。

  トランプ氏は次第にいら立ちを強め、協議を解決への道筋ではなく時間稼ぎの戦術と見なすようになった。関係者によると、同氏は米国とイランの長年にわたる対立の歴史に強い関心を示してきた。トランプ氏の認識は、2024年大統領選の期間中に2度の暗殺未遂事件に遭い、イランによる自身への攻撃計画の可能性を警告する情報機関の報告でさらに強まった。

  関係者によれば、こうした流れは単一の報告によるものではなく、一連の協議の積み重ねによるものだった。25年1月のトランプ政権2期目発足から1年2カ月の間に、ネタニヤフ氏は米国で6回余りトランプ氏と会談し、継続的な働きかけを行った。こうした影響はトランプ氏の既存の懸念を強めたが、意思決定を単独で左右したわけではないという。

  イスラエルやペルシャ湾岸地域に駐在した経験を持つ元米外交官のレスリー・ツォウ氏は、「私はビビ(ネタニヤフ氏)がこのやり方を何十年も続けてきたのを見てきた。トランプ氏という、これまでよりも理解のある相手を見つけた」と話した。

  関係者の説明では、対イラン強硬策を支持する米国内の勢力は、1月に起きた二つの重要な出来事を好機と捉えた。一つはベネズエラのマドゥロ前大統領の劇的な拘束で、トランプ氏自身や側近の一部が決定的な軍事行動のモデルと見なした。もう一つは、数千人の死者を出した大規模抗議デモへのイラン当局の弾圧で、米イラン間の緊張を一段と高めた。

  弾圧が激化する中、トランプ氏はイラン国民に対し「支援は間もなく届く」と語り、米軍による関与の可能性を示唆した。数週間以内に攻撃を承認する寸前まで至ったが、関係者によると、イスラエル当局は米軍の追加戦力が整うまで攻撃を遅らせるよう求め、一方で湾岸諸国の一部は、紛争の影響を最も強く受けるとして緊張緩和を直接訴えた。

U.S. And Israel Wage War Against Iran
米国とイスラエルの攻撃を受けた爆発の様子(3月2日、テヘラン)Photographer: Majid Saeedi/Getty Images

  関係者によれば、ネタニヤフ氏はイスラエルの情報を一貫して最も強硬な形で提示してきた。差し迫った脅威を認識していなかった米欧の評価とは食い違うもので、イランの核開発について最悪の時間軸を強調し、体制転換に向けた最良のシナリオを前面に押し出す一方、エスカレーションのリスクは過小評価していたという。

  また、イスラエル指導部はマドゥロ氏拘束の成功を引き合いに出し、米国が敵対的な指導者を迅速かつ決定的に排除できる証拠と位置付けた。これにより、イランの指揮統制中枢も持続的な圧力の下で同様に脆弱(ぜいじゃく)となるとの主張を補強したと、関係者は明らかにした。

そして現状は

  ただ現状を見ると、米国とイスラエルによる攻撃でイランの最高指導部は殺害されたものの、体制の統治は依然揺らいでいない。

  ネタニヤフ氏の主張の中核には、一段と広範な地域戦略の計算もあった。関係者によると、イランがペルシャ湾岸諸国に報復する可能性を巡る警告を退け、このリスクを許容可能な副次的損害と見なしていた。

  むしろ、こうした事態が最終的に湾岸諸国をイスラエルとの安全保障協力へと一段と引き寄せる可能性があると考えていたという。同氏の見方では、短期的な不安定化が長期的な地政学的再編を加速させるとしていた。

  元駐米イスラエル大使でネタニヤフ氏の外交政策顧問も務めたダニー・アヤロン氏は、「首相は湾岸諸国が攻撃を受ける可能性があるとみていた」と話す。「開戦前、湾岸諸国はバランスを取っていた。米国やイスラエルとの防衛面での連携を望む一方で、イランとの外交も模索していた」と指摘。「ネタニヤフ氏はこの戦争が湾岸諸国とイスラエルの連携を加速させると考えていた」と述べた。

  しかし、これまでのところその見通しは現実となっていない。湾岸諸国の一部は、望まぬ紛争に巻き込まれたことや激しい報復にさらされたことで、自らの脆弱性を再認識し、イランと同様にイスラエルに対しても警戒感を強めている。他方で、特にアラブ首長国連邦(UAE)などは、米国およびイスラエルとの関係強化に傾いている。

  米国では、戦争を正当化する情報はなかったとする見方がなおある。一方でイスラエルでは、機会は一瞬で脅威は現実であり、待つコストの方が戦争のリスクを上回っていたとのシンプルな認識が共有されている。

Israel Faces Further Missile And Drone Attacks After Weeks Of War With Iran
メディアに語るネタニヤフ首相(3月22日、イスラエル南部ディモナ)Photographer: Alexi J. Rosenfeld/Getty Images

  ネタニヤフ氏は国内で、イランの軍事・核能力が完全に破壊される前に停戦を受け入れたとして圧力に直面している。イスラエル当局者の間でも停戦について、弱体化したイランの体制を維持させ、次の衝突の火種を残すリスクを懸念する声がある。

  イランとの戦争を強く支持してきたイスラエルの野党指導者ヤイル・ラピド氏はSNS投稿で、「軍事的成功が外交的惨事に変わった」と批判し、「傲慢(ごうまん)さや無責任、ずさんな仕事ぶり、米国に対して売り込まれた虚偽が組み合わさり、両国間の信頼を損なった」と指摘した。

  ネタニヤフ氏は8日の記者会見で、戦争終結には程遠いとの認識を表明。「強調しておきたいが、これは作戦の終わりではない」とし、「われわれは引き金に指をかけている」と語った。

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原題:Netanyahu-Trump Divisions on Iran War Threaten to Box In US(抜粋)