[東京 27日 ロイター] – 衆参の予算委員会で27日に行われた証人喚問は、佐川宣寿・前国税庁長官が財務省決裁文書の改ざん理由や経緯について、刑事訴追の恐れがあるとして証言を拒否したため、真相解明にはほど遠い結果となった。野党側は安倍昭恵首相夫人、迫田英典・元国税庁長官らの証人喚問を要求した。
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この日の証人喚問を前に、政府・与党は守勢に立たされていた。26日付日本経済新聞朝刊に掲載された世論調査で、財務省決裁文書の書き換え問題で、安倍首相に「責任がある」との回答が70%に達し、昭恵夫人の国会招致は「必要だ」が62%となった。その前に出ていた国内メディアの世論調査では、内閣支持率が急落。中には30%前半に低下する結果もあった。
こうした世論の動向も踏まえ、自民党が動く。複数の関係者によると、二階俊博幹事長が最終判断し、「ぎりぎりまでくすぶっていた(喚問実施の)反対派を押し切った」とされる。注目される証人喚問は、27日午前9時半から始まった。ただ、問題の核心の1つとされる決裁文書改ざんの目的や経緯、佐川氏自身の関与の程度は「刑事訴追のおそれがある」との理由で証言を拒否。対照的に安倍首相や昭恵夫人、麻生太郎財務相、財務省幹部の関与については、明確に否定した。
その結果、この日の喚問では、事実関係に関する新たな証言はなく、明確な違法行為である決裁文書の改ざんが、何を目的に、いつ、だれが主唱したのかと言う疑問点は解明されなかった。一方、佐川氏が安倍首相らの関与を明確に否定したため、金融・資本市場では、この問題の拡大はひとまず回避されたのではないかとの受け止めが広がった。
大和証券・シニアストラテジストの石黒英之氏は「佐川氏の証人喚問での発言内容を(市場は)好感している。(財務省の決裁文書改ざんについて)首相や首相夫人の関与を否定し、国内の政治不安がいったん後退した」と述べている。また、経済同友会の小林喜光代表幹事は27日の会見で、森友問題だけでなく「国会は問題が山積している」と指摘。働き方改革や財政再建問題などを森友問題と並行して議論すべきとの見解を示した。
他方、野党側は、佐川氏が核心部分で証言を拒否し、真実の追及ができなかったとし、昭恵氏に加え、迫田英典・元国税庁長官、武内良樹・財務省国際局長、夫人付職員だった谷査恵子氏の証人喚問を要求した。
与党側は回答を留保したが、野党の要求を当面、拒否するとみられている。また、ある政府関係者は「4月以降は予算委がないことから、今のように連日追及する場がなくなり、いったん凪(なぎ)のような状態になるだろう」と、政府・与党への圧力がいったん緩和するだろうと予測する。
ただ、与党関係者とその周辺では、大阪地検特捜部が財務省決裁文書の改ざん問題で強制捜査に乗り出したりすれば、「一件落着」どころか、政府への逆風が一段と強まるとの懸念もくすぶる。
財務省内の調査は、大阪地検の捜査の状況をにらみつつ、捜査が終結した後に取りまとめる方向。一部の関係者の間では、4月下旬から5月上旬にかけた大型連休前後がメドになるとの見方がある。また、処分対象者が理財局内にとどまらなければ「麻生財務相の進退も問われる」(与党周辺)との指摘も少なくない。
「一件落着」か「逆風加速」──。その動向を大きく左右するのは、世論の動向だという見方が与党関係者の中に広がっている。世論の風向き次第では、安倍首相が重要法案と位置づける働き方改革の関連法案の成立が危ぶまれる事態もあり得そうだ。与党の国対関係者によると、例年、4月末の大型連休が始まる前に法案が衆院を通過していないと、通常国会での法案成立は「赤信号」が点灯しかねない。マーケットは楽観論が支配しているものの、対照的に永田町では緊張感が増す展開もありそうだ。
(ポリシー取材チーム 編集:田巻一彦)