治験について説明する京都大学iPS細胞研究所の井上治久教授=京都大学iPS細胞研究所
iPS細胞を使って、難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の状態を再現し、治療薬の候補を探す研究の結果、白血病の治療薬が有効な可能性が示されたとして、京都大のチームが治験を始める。治験は公的医療保険の適用を受けるために必要な手続きで、実用化をめざして動き出した。京大が26日、発表した。
薬は慢性骨髄性白血病の治療薬「ボスチニブ」。1日1回、12週間にわたって口から飲む。京大病院など4カ所の医療機関で24人に実施する。発症後2年以内の20~79歳の患者で、症状は進行している一方、まだ働けたり、家事などができたりする人が対象になる。
この薬は白血病の治療では、肝機能の悪化や下痢などの副作用が知られている。今回は主に安全性を検証しつつ、症状の改善の程度も調べる。
ALSの患者は国内に約9千人。筋力が低下し、体を動かすことが徐々に難しくなっていく。進行を遅らせる薬はあるが、確立した治療法はない。
チームによると、ALSの患者からつくったiPS細胞を使って運動神経の細胞をつくり、既存の薬を含む約1400種類の化合物を使って効果を調べた。その結果、27種類で細胞死を抑えるなどの効果を確認。少量で効果があるかなどを検討し、今回の薬の治験を決めたという。
京大iPS細胞研究所の井上治久教授(神経内科)は「私がALSの研究を始めた20年前はiPS細胞がなかったが、山中伸弥先生がiPS細胞をつくり、それを使って効く薬を調べてここまで来た。今回は安全性をみる治験だが、根本的な治療を提供できる可能性があると期待している」と話している。
患者の募集方法は調整中。今後iPS細胞研究所のホームページで公表していくという。
iPS細胞を使って治療薬を探す「創薬」は、iPS細胞からねらった細胞に変化させ、患者に移植する再生医療と並び、iPS細胞の活用法として期待されている。創薬ではこれまで、全身の筋肉に骨ができる難病「進行性骨化性線維異形成症(FOP)」など複数の治験が始まっている。(合田禄、後藤一也)