ロイターによると欧州中央銀行(ECB)は市中銀行を対象とした長期資金供給オペ(TLTRO)の第3弾について、「ゼロ金利やマイナス金利での貸し出しを検討している」という。マイナスの預金金利をいの一番に導入したECB。今度は貸し出し金利をマイナスにするという。お金を借りれば利息がもらえる。これは人類始まって以来の出来事。そこまでいうとちょっと大袈裟かもしれないが、貸し出し金利がマイナスになるというのは異常事態以外の何物でもない。欧州の経済状態はそれほど悪いのだろうか。通貨の供給量を増やす異次元緩和の次は貸出金利をマイナスにする。いっそのこと個人の貸し出しにもマイナス金利を導入してみたらいいのではないか。

金融機関と中央銀行の間はマイナス金利になっても、金融機関と借り手の間がマイナスになるかどうかわからない。仮にマイナスになれば、企業は金融機関からおカネを借りれば借りるほど、受け取る利息が増えることになる。本来おカネを借りれば利息を払うのが普通だが、マイナス金利の貸し出しが実現すれば利息をもらうのはおカネの借り手ということになる。仮に貸し出し金利がマイナス0.4%だとすれば、100万円を銀行から借りた企業は年間に4000円の利息を受け取ることになる。銀行は原資の100万円をECBから借り手くるわけで、その分の利息4000円をECBから受け取る。これを貸し手の企業に支払うことになり、差し引きはゼロ。貸し出し先のマイナス金利をECBの金利のよりも高くすれば金融機関の利益になる。

EU経済の先行きは決して明るくない。英国のEU離脱問題は決着しないままズルズルと先送りさている。10日に開いた臨時首脳会議で今年の10月末までの離脱延期が認められた。経済にとっての不透明要因があと半年続くことになる。加えてトランプ大統領は欧州航空機大手のエアバスに対する補助金が不当だとして、EUからの輸入物品110億ドルに関税を科す方針を示している。このほかNATOの分担金問題やイラン制裁をめぐる軋轢など、EUと米国の関係も冷え込んでいる。ドラギECB総裁は3月はじめの理事会で、金融引き締め策の停止を決めたばかりである。9月にはTLTROを再開する方針。マイナス金利はおそらくそれに合わせて実施するのだろう。EUを覆う不透明感は一段と濃くなってきた。