マネタリーベース(資金供給量)の拡大が急速に鈍っていることを日銀が気にしているとの見方が市場で広まっている。1月の短期国債の買い入れオペ(公開市場操作)で、購入額を大幅に増やしたからだ。資金供給量の増加額は異次元緩和を始めた頃の水準まで減っている。このため資金供給量と直結する長期国債買い入れ額の削減も徐々に続けにくくなっており、今後、長期金利などへの低下圧力が再び強まりそうだ。
市場関係者が驚いたのは今年初めて日銀が実施した16日の短期国債のオペだ。1回の買い入れを5000億円と2018年10~12月の1000億円から大幅に増やした。12月分の買い入れ額(4000億円)を1回で超えるペースだ。今月2回目の22日のオペも5000億円で据え置いた。
日銀関係者は「季節要因にすぎない」と説明するが、野村証券の中島武信氏は「18年は買い入れの季節性が薄れていたのに、ここに来て変化したのは何らかの配慮があるのではないか」とみる。
市場では「資金供給量の増加ペースが大きく減らないように配慮している可能性がある」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美氏)との見方が広がる。
資金供給量は市中に出回る現金量と、金融機関が日銀に持つ当座預金の合計。日銀がオペで金融機関から国債などを買えば、当座預金は増える。
資金供給量は18年末で約504兆円。前年同期比の増加額は24兆円と、13年4月に異次元緩和を開始する直前の水準まで低下した。増加額が20兆円を割れば、異次元緩和開始前の水準に戻ったことがより鮮明になる。
日銀は「物価上昇率が安定的に2%を超えるまで、資金供給量の拡大方針を継続する」としてきた。1円でも増えれば資金供給量は拡大していると言えるが、政策委員の1人は「拡大ペースがどんどん鈍っていいわけではない」と話す。
世界景気の減速懸念から市場にリスク回避ムードが漂う中、増加額が20兆円を割り込めば、「市場で緩和の縮小が意識され、株安・円高が進む可能性がある」(野村証券の中島氏)。
資金供給量の鈍化要因は、昨年12月まで短期国債の保有額を減らしてきたことと、保有する長期国債の増加ペースが鈍ったことだ。長期国債の買い入れ額は削減傾向が続いているが、今後も減らし続けるのは次第に難しくなっているとの思惑も浮上する。
日銀は28日、満期までの期間が「25年超」「3年超5年以下」など4本の国債買い入れオペで、買い入れ額を前回から据え置いた。SBI証券の道家映二氏は「株が下がり円高になっているところを刺激したくなかったのではないか」とみる。
大規模な緩和が長期化して日銀が保有する国債の規模が大きくなったため、国債の需給は引き締まりやすくなっている。オペを減らさなければ、金利には一層の低下圧力がかかる。リスク回避の局面では、長期金利が年初に付けたマイナス0.05%程度まで再び低下する可能性があるとの見方が強まっている。
(福岡幸太郎)