黒田総裁は金融政策決定会合後に開かれた記者会見で次のように述べた。「強力な金融緩和を粘り強く続けていく」。10月に予定する消費税率引き上げの影響と世界経済の動向を含めた経済・物価の不確実性を指摘した上で語ったものだが、2%の物価目標は一向に実現する気配はない。6年前にベースマネーの大量供給によって物価は2年以内に2%に到達すると大見栄を切った総裁だが、現実的には「20年春ごろまでは金利を引き上げる検討は全くないし、それより先でもかなり長い期間にわたって継続する」と強調した。要するに物価は「当分の間」2%には到達しないのである。実現しそうもない目標にこだわる総裁。これは正しい政策の追求と言えるのだろうか。市場からは「教条主義者」との批判も漏れ始めている。

ブルームバーグは昨日、「日本銀行は当初2年で達成を目指した2%物価目標が9年たっても達成できないとの見通しを示す一方で、長期化する超低金利政策がもたらす副作用については静観を続ける構えだ。エコノミストの間からは、異次元緩和と金融システムの安定が齟齬(そご)を来し始めているとの声も出ている」と書いた。そして、明治安田生命保険の小玉祐一チーフエコノミストの次のコメントを引用した。「日銀に物価目標を達成する能力がないことがこの6年で明らかとなったが、不透明感の高まりでそれを認めることができず、自縄自縛に陥っている」と。さらに同氏は「経済の不均衡が物価だけに現れるわけではないということ、こうした中で教条的に物価目標の達成を掲げ、ひたすら金融緩和を進める姿勢が正しいのかどうか、あらためて考える必要がある」とも語っている。

個人的には黒田総裁は「ベースマネーを増やせば、インフレマインドが改善し物価が上昇する」という新市場主義者が掲げる“教義”に拘泥しすぎていると思う。物価はマネタリーベースの増減では動かない、これが過去6年間で実証した黒田異次元緩和の結論である。ではどうすればいいのか。答えは簡単だ。需要を増やすしかない。需要を増やすのは金融政策ではない。財政政策だが、日本は巨大な財政赤字を抱えている。財政の出動には世論が反対する。財政には頼れない、だから金融でなんとかしろ。これが財務省出身の黒田総裁に課された使命だろう。総裁とて分かっているはず。でも安倍首相と約束した“メンツ”がある。中銀として掲げた教義に背く訳にもいかない。教条的にならざるを得ない。かくして間違った判断が継続する。そして金融機関が弱体化する。地方金融機関の体力は限界に近づいている。金融不安の再来が実体経済を道連れにする可能性が徐々に高まっている。