離れた物質の間で情報を瞬時に移動させる「量子テレポーテーション」と呼ばれる技術を利用して、新型の量子コンピューターの開発に取り組んでいる東京大学の研究チームが心臓部となる回路を開発したと発表しました。世界的に開発競争が進む量子コンピューターの小型化などが期待できる新技術として注目されます。

東京大学の古澤明教授の研究チームは、2つの離れた物質の間で情報を光の速度で瞬時に移動させる「量子テレポーテーション」と呼ばれる技術に着目し、新型の量子コンピューターの開発を進めています。

「量子テレポーテーション」は量子と呼ばれる光の粒など極めて小さな世界で使える技術で、これを量子コンピューターに応用するには「量子もつれ」という特殊な物理現象を作り出す回路が必要でした。

これについて研究チームは光の粒を鏡で反射させるなどの工夫で1つの回路で1000個以上の「量子もつれ」の状態を作り出し、さまざまな計算が可能なループ状の回路を作ることに成功したと発表しました。

スーパーコンピューターをはるかにしのぐ性能が期待される「量子コンピューター」はカナダやアメリカ、日本などの企業や研究機関がさまざまなタイプのものを開発し、一部販売が始まるなど世界的に開発競争が進んでいますが、装置が大きかったり、用途が限られたりするなどの課題もあります。

今回の研究チームの技術を使えば装置の小型化と幅広い用途に使える汎用(はんよう)性の高いものが見込めるということです。

開発した回路で実際に「量子テレポーテーション」を使った計算を行えるようになるにはあと数年かかる見通しで、東京大学の古澤教授は「回路の開発で実現に向けた道のりは大きく進んだ。小型化できるという他にはない利点があり、開発を急ぎたい」と話しています。