中国の習近平主席は20日、国内のレアアース(希土類)関連施設を視察した。ブルーンムバーグが伝えている。この視察には米国との貿易交渉を率いてきた劉鶴副首相が同行した。貿易交渉の行き詰まりを受けて米国は、2000億ドル相当分の関税を10%から25%に引き上げた。さらに3250億ドル相当分の輸入品に新たに25%の関税をかける検討を開始した。だが、レアアースは除外している。習主席の今回の訪問は明らかに米国の動きを牽制したものだ。米国のレアアースは80%を中国からの輸入に頼っている。今回の視察で習主席は「新たな関税の導入に踏み切ればレアアースの輸出を停止しますよ」と言っているわけだ。トランプ大統領はこのささやきにどう応えるのだろう。

まるでドラマを見ているようだ。強気に押しまくるトランプ大統領。次々と追加関税の発動を匂わせ、ファーウェイの締め出しに奔走している。ロイターによると大統領は19日夜に放映されたFOXニュースのインタビューで、「(米中は)極めて力強く合意していたが、中国側が変更した。米国は中国製品に関税をかけるため、それでも構わないと言った」と語っている。約束を破ったのは中国、だから関税をかけるというロジックだ。これに対して中国外務省の陸慷報道官は20日、「米国は中国との通商合意に『行き過ぎた期待』を持っている」との見解を示した。そして「これは中国側が合意したものではない」と念押ししている。言ったのは習主席ではない。外務省の報道官の発言である。どちらの言い分が正しいかわからない。だが、個人的には功を焦った大統領の前のめりの姿が頭を過ぎる。

政治は駆け引きである。勝つか負けるか、あの手この手を繰り出しながら相手を打ち負かそうとする。トランプ大統領には「再選」という大舞台が待っている。有権者に“強い”大統領の姿を見せたい。ディールが得意なトランプ大統領の本音だろう。功を焦るあまりに得意のディールで策に溺れたとしたら、これは“悲劇”だ。強気一辺倒の構え。それがドラマの幕引きを難しくしている。中国がレアアースの輸出停止に踏み切れば、貿易戦争どころではない。本物の戦争になるかもしれない。そんな危険をはらみながら米中の貿易交渉は最終局面を迎えている。ドラマはハッピーエンドがいい。とりあえず貿易戦争を収束させるために双方の譲歩が必要だ。面子を保ちながら譲歩し妥協する。そのためには、ドラマのラストシーンを演出する演出家が必要だ。