【ワシントン=河浪武史、ニューヨーク=中山修志】米国最大の経済団体である全米商工会議所は31日、トランプ米政権が表明したメキシコ製品への関税発動に反発し、差し止めを請求するためホワイトハウスを提訴する検討に入った。巨額のロビー資金で共和党政権を支えてきた同商議所が、ホワイトハウスを提訴すれば極めて異例だ。トランプ大統領の相次ぐ貿易制限策に、米産業界の不満が強まっている。
米国にとってメキシコは中国に次ぐ2番目の輸入相手国だ(4月、メキシコから米国への通関を待つトラックの列)=ロイター
全米商工会議所の関係者が日本経済新聞の取材に明らかにした。提訴の是非を週末に議論し、週明けの6月3日にも正式に判断するという。同商議所は30日に「メキシコ製品への関税導入は極めて間違った行動だ。関税は米国の家計や企業が支払うことになり、国境問題の真の解決にはつながらない」との声明を発表した。
トランプ大統領は30日に、メキシコの不法移民対策が不十分だとして、6月10日からすべての同国製品に5%の関税を課すと表明した。最大25%まで関税を引き上げると主張しており、メキシコに生産拠点を持つ米自動車産業などにとっても、供給網全体のコストがかさんで悪影響が大きい。
全米商工会議所は米企業300万社が加盟する米国最大の経済団体で、年1億ドル(約108億円)近いロビー資金を投じて政策に影響力を行使している。伝統的に共和党寄りとされてきたが、中国製品への制裁関税などトランプ政権の貿易制限には強く反対してきた。ホワイトハウスの提訴に踏み切れば、米産業界のトランプ政権離れが鮮明になる。
その他の有力業界団体も31日、相次いで対メキシコ関税に反対を表明した。米自動車工業会は声明で「1000万人の雇用を抱える米自動車産業の競争力は、北米のサプライチェーンと越境取引に支えられている」と訴えた。自動車部品については「完成までに何度も国境をまたぐケースがあり、関税がかかれば連鎖的な影響が及ぶ」と指摘した。
全米小売業協会はウェブサイトにメキシコからの主な輸入品と関税がかかった場合の影響を掲載。「米企業と消費者の関税負担は増加し続けており、米国民に農産物や衣類の支出増を強いることは移民問題の解決にはならない」と主張した。
小麦の米業界団体は「大雨と洪水に続いて、今度は米政府から被害を受けている」とコメントした。トランプ氏が北米自由貿易協定(NAFTA)離脱を表明したためにメキシコへの小麦輸出が減少したといい、「ところ構わず関税をかけることをやめるべきだ」と関税の取り下げを求めた。(日経新聞)