トランプ大統領による利下げ圧力が強まる中でFOMC(公開市場委員会)が開かれ、政策金利の据え置きが決まった。パウエルFRB議長はトランプ大統領の圧力をかわしたように見える。だが、実態は逆のようだ。理事会後に発表された声明では「忍耐強く」対処するという文言が消えた。代わって2%目標近くのインフレの維持に向けて「適切に行動する」との表現が盛り込まれた。利上げを示唆する「忍耐強く」から、利下げ含みの「適切に行動する」への変化。見ようによっては政治の圧力に屈したように見えないこともない。FRBは独立性を放棄したのか。次に頭をよぎるのは、中央銀行の独立性って何?という問題だ。最近の米国経済を背景としたトランプ大統領と中央銀行の“激突”は、経済運営に関する様々な問題を提起しているように見える。
トランプ大統領の“圧力”がないと仮定すると、パウエル議長は中央銀行総裁として実体経済に忠実に金融政策を遂行しているように見える。利上げを模索していた昨年末までの米国経済を取り巻く環境は良好だった。各種経済指標はほとんどが上向きで、FRBとして利上げを模索するのは過度な物価上昇を抑えるための正当な手続きだった。その米国経済が年明け早々から後退の気配を見せ始める。トランプ大統領による一国主義的な政策が様々な軋轢をうみ、世界経済に陰りが見えはじめたのである。米国のみならず世界経済の先行きはただでさえ不確実なものだ。この不確実性に対処するために中央銀行は、フォワードガイダンスとして近未来の金融政策の方向性を提示する。これが雇用の確保と物価の安定を責務とする議長の務めだ。
議長の責務を担保するために中央銀行には独立性が担保されている。政府の実態を無視した要求は拒否できる。有り体に言えばこれが中央銀行に付与された独立性の意味だ。それを言葉にすれば「忍耐強く」ということになる。では、逆はありえるのか。政府の経済運営に逆らって中央銀行が勝手に金融政策を発動することは可能なのだろうか。良い悪いは別にして、トランプ大統領が提起している問題は「逆もありえる」という主張だ。政府の方針に逆らう中央銀行は拒否できる。個人的にはパウエル議長は実体経済に寄り添っているわけで、トランプ政権に逆らっているようには見えない。しかし、トランプ氏にはそう見えるのだろう。日本は政府と日銀がアコード(協定書)を締結、デフレ脱却に向けて足並みをそろえている。だが日本経済には米国のような活力はない。政府・日銀の足並みのそろえ方が間違っているのかもしれない。
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