米イラン対立

イランの原子力庁は、核合意の制限を超えて引き上げたウランの濃縮度を20%以上に高めることも選択肢にしていることを明らかにし、強硬姿勢を示すことで核合意に参加しているヨーロッパ各国に経済の支援策を迫る方針です。

イランは、アメリカの制裁によって核合意で約束されていた経済的な利益が得られていないとしてウランの濃縮度の引き上げに踏み切り、8日、制限されていた基準の3.67%を上回り、4.5%以上に達したとしています。

イランは、60日後までに状況が改善されなければ新たな義務の停止に踏み切るとし、イラン原子力庁の報道官は国営放送の取材に、「20%の濃縮や、それ以上に高めることも選択肢だ。必要に応じて引き上げることになる」と述べて、濃縮活動の強化を検討していることを明らかにしました。

また、濃縮活動で使われる遠心分離機を合意で定められた数より増やすことも選択肢に入れているとしています。

ウランの濃縮度は20%以上になると、核爆弾を作るのに必要な時間が大幅に短縮できるとされているほか、遠心分離機を増やすことも本格的な核開発につながるおそれがあります。

イランとしては、強硬姿勢を示すことで核合意に参加しているヨーロッパ各国に経済の支援策を迫る方針ですが、かえって反発を招き、アメリカがさらに圧力を強めることも考えられ、状況を改善できるかは不透明です。

イランの要求と米の圧力 板挟みの欧州

イランが再び核合意を順守する状態に戻るかどうかは、ヨーロッパ側が有効な経済支援策を打ち出せるかどうかにかかっていますが、イラン側の要求を満たすのはハードルが高いのが現状です。

それは、アメリカのトランプ政権によるヨーロッパへの圧力があるからです。

フランス、ドイツ、イギリスは、イランが「核合意で約束された経済的な利益を得られていない」として強い不満を示していることを受けて、イランとの貿易を続けるための事業体を設立し、先月、ようやく運用が始まりました。

この事業体はINSTEX=貿易取引支援機関と呼ばれ、ヨーロッパの企業はイラン側と取り引きしても、INSTEXを介してユーロ建てで決済すればアメリカによる制裁の対象になりません。

イラン側はこの仕組みを使って原油を輸出し利益を上げたいと考えていますが、当面の取り引きは、そもそもアメリカの制裁対象とはなっていない医薬品や食品など小規模なものにとどまるとみられています。

ヨーロッパ側としては、アメリカとの貿易交渉などを控える中で、トランプ政権を刺激して関係が悪化することは避けたいとの思惑があるほか、アメリカから直接的な圧力を受けているものとみられます。

実際、フランスのルメール経済相はことし5月、「アメリカによる圧力は極めて強力、かつ直接的で、政治家や行政など関係するあらゆる方面に及んでいる」と述べ、INSTEXをめぐってアメリカから圧力を受けていることを認めました。

INSTEXの調整役を務めるEU=ヨーロッパ連合は、設立した3か国以外にも参加する手続きを進めている加盟国があると強調し、将来的にはEU域外の国も利用できるようにするとしています。

EUとしては、この仕組みを通じてイランと貿易する国を増やすと同時に、原油より額が小さい取り引きでも種類を増やすことにより、いわば「質より量」でイランを納得させたい思惑がありますが、どこまで規模が広がるかは不透明です。

このようにEUは、アメリカの圧力とイランの要求の板挟みという難しい立場に置かれています。