北朝鮮の対韓国宣伝サイトである「ウリミンジョクキリ(わが民族同士)」は9月2日、韓国政府による日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄に関する記事を3本公開した。
そのうちの1本は、「反日闘争の火柱も高く、親日積弊残滓を徹底的に清算してしまうことで、屈することを知らぬ民族の気概を大きく示すべきだ」などとして、GSOMIA破棄を支持する韓国民衆を煽る内容だ。
もう1本は、韓国政府のGSOMIA破棄の決定に対して「憂慮と失望」を表明し、日米韓の3国協調の維持を主張する米国の態度は不当な干渉であると排撃する内容である。
そして残る1本は、次のような書き出しで始まる。
「先ごろ、南朝鮮では、『韓日軍事情報保護協定』の破棄が決定された。これは日本のサムライたちの横暴非道な経済侵略行為に反対し、正義の反日闘争に立ち上がった南朝鮮の民心が抱いてきた当然の結果である。刀を抜いて殺到する強盗と戦い、相応の罰を与えるのは誰も否定できない自衛的権利である」
さらにはこの記事も、「憂慮と失望」を表明した米国を非難。日本の「経済侵略」に対しては見て見ぬふりをしながら、韓国の決定に激怒するのは「二重的な態度」であると断罪している。
と、ここまで読めば、この記事の趣旨は韓国の文在寅政権にエールを送るものであると思えるのだが、実はその正反対だった。記事は続ける。
「『韓日軍事情報保護協定』の破棄は『自主的決定』であると主張していた南朝鮮当局は、激怒した主(米国)の号令の前に縮み上がり、『韓米同盟には影響がない』『より堅固な韓米同盟のために努力する』、『米国との緊密な協議を通じて、日米韓共助を継続的に推進していく』などと機嫌とり、卑屈に振る舞っている。骨髄まで染みた事大的根性と、外勢依存政策の集中的発露であると言わざるを得ない」
北朝鮮メディアは、韓国政府がGSOMIA破棄を決定してしばらくの間、論評することを控えていたのだが、この記事を読んで理由がわかった。文在寅政権が決定を繰り返さず、「破棄」をやり遂げられるかどうか怪しんでいるのだ。
もとより文在寅政権としては、破棄そのものに目的があるわけではない。どこまでも日本を圧迫するためだったのが、当てが外れて米国を敵に回し、悩みが深まってしまったのが現状なのだ。北朝鮮はそこへさらに、圧力をかぶせてきた。「GSOMIA破棄を覆すようなら、いっそう信用できなくなる」と言っているわけだ。
多国間の錯綜する利害の調整は、文在寅政権が最も不得手とするところだ。GSOMIA破棄で自ら招いた悩みは、深まるばかりだ。