記者会見する菅義偉官房長官=1日午前、首相官邸
記者会見する菅義偉官房長官=1日午前、首相官邸

 菅義偉官房長官の影響力低下を指摘する声が出ている。昨年の新元号「令和」発表を機に「ポスト安倍」の有力候補へ浮上したが、最近は側近の相次ぐ不祥事で足元が揺らぐ。新型コロナウイルス対応でも、安倍晋三首相との「すきま風」がささやかれる。

新型コロナ対応で浮かんだ亀裂 菅氏「失権」 重み増す今井補佐官

 「いろいろな意見がありますよ」。首相が4月、新型コロナ感染拡大に伴う外出自粛を呼び掛けるため、自宅でくつろぐ自身の動画をツイッターに投稿すると、菅氏は直接こう苦言を呈した。

 新型コロナ対応をめぐり、首相と菅氏の間にはコミュニケーション不足が目立つ。首相は全国一斉休校の方針を菅氏抜きで決定全世帯への布マスク配布でも事前に相談しなかった。与党内からは「菅氏が意思決定から外されている」との声が漏れる。

 一連の対応は、首相側近の今井尚哉首相補佐官らが主導したとされる。政府関係者によると、首相が側近重視に傾く中、菅氏も「半身」の構えに転じ、両者の間にずれを生んでいるという。

 安倍政権を一貫して中枢で支える菅氏は、昨年4月の元号発表で「令和おじさん」として知名度が急上昇。翌月には、危機管理を担う官房長官としては異例の米国訪問で、ペンス副大統領らと会談して存在感を高めた。同7月の参院選では、全国から応援依頼が殺到する人気ぶりだった。

 しかし、同9月の内閣改造から2カ月足らずの間に、菅氏が入閣を後押ししたとされる2閣僚が「政治とカネ」の問題で辞任。側近の和泉洋人首相補佐官にも女性問題が浮上した。

 これに、自民党内からは「『菅銘柄』ばかりだ」(ベテラン)との批判が噴出。さらに、新型コロナ対応で首相との距離感が取り沙汰されると、菅氏は周囲に「疲れた」とこぼした。

 首相の党総裁としての任期は残り1年半を切った。菅氏は自身の総裁選出馬を繰り返し否定。引き続き首相を支える姿勢を示す一方、党内の派閥領袖(りょうしゅう)らと会食を重ねるなど、今後の「ポスト安倍」政局をにらんだ布石も打っている。無派閥の中堅・若手を中心に、菅氏の出馬を期待する向きも根強い。

 「日々直面する新たな課題に対処してあっという間に月日が過ぎており、落ち着いて振り返るのはまだ早い」。菅氏は4月30日の記者会見で、改元からの浮き沈みの激しい1年をこう振り返った。