とはいってもまだ何も起こっていない。新型コロナウイルスの襲来によって日本経済は壊滅的な打撃を受けた。日本だけではない。世界中が経済崩壊の危機に直面している。経済が崩壊すれば人々の生活基盤も崩壊する。それを防ぐために各国で巨額の財政出動が計画されている。安倍政権は第1次、第2次合わせて事業規模が233兆円にのぼる補正予算をまとめた。国債の新規発行額は32兆円に迫る。トランプ大統領はすでに2兆ドル(220兆円)の経済対策を実行に移している。さらなる対策も検討中だ。EUは5000億ユーロ(約58兆5000億円)規模の復興基金設立の準備を進めている。いずれも財源は国債だ。無意識のうちにMMT(国債は無制限に発行できる)が実行に移されている。
こうした動きをみていると、安倍政権が掲げていた「財政再建路線」やEUの緊縮財政路線が跡形もなく消えさってしまったかのような錯覚に陥る。トランプ大統領はだいぶ前からMMT路線で突っ走っている。双子の赤字を抱えながら大規模減税を実施、その財源を国債増発で賄っている。ちょうど1年前のいまごろ、MMTの第1波が襲来した。この時、世界中のエスタブリッシュメン(政策を担う人たち)はこれを「異端の経済学」と一蹴していた。その舌の根も乾かないうちに、それは言い過ぎだとしても、未知なるウイルスの襲来という緊急事態を前にあっけなく前言を覆し、何の説明もないまま巨額の国債増発に突き進んでいる。あるのは緊急、異例の非常事態という認識だけだ。
だが、本質は何も変わっていない。新市場主義をベースとしたいまの経済運営は、「強いものをより強く」し、市場機能を活用した「効率化」の追求に比重を置いてきた。小さな政府による過当競争ともいうべき競争政策がまかり通り、その裏で弱者は切り捨てられてきた。結果的に「資産」「賃金」「医療」「教育」「生活」など様々な分野で格差が拡大した。本来目指すべきは国民全体の豊かさだ。MMTはそのための単なる手段にすぎない。手段としての有効性はみえてきた。だが、何をどうやって具体化するのか?天文学的な経済対策が踊っているだけで、具体的な方法論はほとんどない。これを機に議論が始まることを期待したい。
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