東京五輪の大会エンブレムと新型コロナウイルスのイメージを掛け合わせたデザインが日本外国特派員協会(FCCJ)の会報誌に掲載された問題は、FCCJ側が5月21日、大会組織委員会の取り下げ要請に応じ、公式サイトからデザインを削除して決着した。ただ、FCCJが同日、オンラインで開いた会見では、「表現、報道の自由」が損なわれたと取り下げに反発する会員が続出。矛先は、パロディーや風刺表現に寛容でないとされる日本の法律や文化にも及んだ。
FCCJのカルドン・アズハリ会長は会見で、「理事会で弁護士や専門家に相談した結果、日本でのわれわれの立場は有利ではないという明確な助言を受けた」とし、取り下げは著作権法上の理由と説明。「今回の問題で不快な思いをされた各方面の方々に心よりおわびする」と謝罪した。
これに会員の外国人記者らがかみついた。組織委は著作権侵害のほか「大会エンブレムを新型コロナウイルスと結び付け、ネガティブなイメージを付加することは、五輪ムーブメントの目的に反する」と問題視したが、ある会員は「パロディーはネガティブな印象を与えるものでなく、芸術だ」と反発。別の会員は問題のデザインをプリントしたTシャツを着用し「これが問題とされること自体、欧米では考えられない」と声を上げた。
アズハリ会長は会見中、「これは報道の自由、表現の自由ではなく、著作権の問題だ。日本で活動する協会として、日本の法律を尊重する」と繰り返し理解を求めたものの、会見はさながら取り下げの是非をめぐる意見交換会の様相に。日本人司会者が「日本ではパロディーや風刺について、著作権法に何の規定もない。常に名誉棄損、著作権侵害となるリスクを抱えていて、(裁判で)どう解釈されるかわからないのが、パロディーや風刺が日本ではほとんどできない理由」と、日本の事情を説明する一幕もあった。
また、問題の会報誌は4月号の上、一般配布もされないことから「組織委が抗議しなければ、ほとんどの人の目にもふれずに過ぎたと思う。抗議したことで大きく報道され、組織委側はある意味、自分たちでダメージを与えたのではないか」との指摘もあった。
アズハリ会長自身、組織委の申し入れが法的な問題にふれず、会報誌の内容に関するものであれば「取り下げることはしなかったと思う」と述べている。その上で「日本国内のパロディー、風刺に関する規制が非常に厳しく、フラストレーションを感じている記者もいると思う。パロディーや風刺についての議論が日本でもっとオープンになっていくことを期待している」と語った。
会見後、外国人ジャーナリストら11人は共同で今回の問題に関する声明を発表した。英ニュースサイト「インサイド・ザ・ゲームズ」などによると、声明では「パロディーは権力に真実を語る有効な方法のひとつ」とした上で、「報道の自由を守る責任を果たさなかったという事実に失望している」とFCCJの対応を批判。組織委に対しても「(招致をめぐる)贈収賄疑惑、膨張する経費、アスリートを危険にさらす状況など、東京五輪をめぐる多くのスキャンダルへの批判をそらすための浅はかな試みのようだ」としている。
ちなみに、「コロナエンブレム」に対するインターネットの反応は、「特に気にならない。過剰反応だ」といった意見がある一方、「欧米の文化や価値観を押し付けないでほしい」「表現の自由は尊重すべきだが、これは風刺ではなく侮辱だ」など、おおむね否定的だ。
(運動部 森本利優)