新型コロナウイルスは様々な課題を浮き彫りにした。その中の一つがICT化やデジタル化の遅れだろう。特別定額給付金(10万円給付)の支給ではオンライン申請したデジタルデータを市町村がプリントアウトし、人海戦術で住民票と付き合わせるといったシーンも報道された。後手後手と批判された安倍政権の上をいく時代遅れの実態だ。22日に開かれた経済財政諮問会議では早速デジタル化の促進が議論された。安倍首相は「国・地方共に行政サービスをデジタル化し、デジタル・ガバメントを国民目線で構築していくことは、もはや一刻の猶予もありません」と、会議の冒頭で力を込めた。果たして現実はどこまで変わるのか、個人的には悲観的にならざるを得ない。

デジタル化の加速を阻害する要因はいろいろある。一例をあげれば医療だ。首相は経済財政諮問会議で次のように発言している。「医療・介護のデジタル化を進めていくことは、感染症の第2波の到来など、今後ありうべき危機に備えるためにも極めて重要であります」。その通りだ。異論はない。コロナ危機で医療が逼迫の度を強める中でオンライン診療が実現した。長らく反対してきた医師会が医療崩壊という危機に直面してデジタル診療を容認したのである。このまますんなりと定着していくことを期待したいのだが、現実的には医師会の本音は相変わらす反対のようだ。日経新聞によると「日本医師会はコロナを受けた規制緩和を『特例中の特例だ』(幹部)とし、収束後は一度元に戻すよう求める」というのだ。

オンライン診療について医師会は、「対面より情報量が限られ、初診からでは重症化の兆候を見逃すリスクがある」(日経新聞)と主張しているようだ。また、「特定の医師に患者が集まることへの警戒感もある」(同)と推測する。オンライン診療が一般化すれば、ICTに不慣れな医師は若い医師に比べ比較優位性が薄れる。地域に密着している開業医にとっては、地域優位性がなくなる可能性もある。ことほどさようにデジタル化はこれまでの慣行、生活習慣、サービス提供のあり方を根本から変える可能性がある。だからデジタル化の推進には変革を受け入れる土壌が必要になる。だが、戦後の高度経済成長の中で培われた“成功体験”がこうした改革の障害になっている。政権にとって必要なのはそれを突き破るパワーだが、その政権が成功体験の上に成り立っている。個人的な悲観論の根拠がここにある。