規制改革やデジタル庁設置など「国民のために働く内閣」を掲げて順調にスタートを切った菅政権に、にわかに暗雲が立ち込めてきた。日本学術会議が推薦した新規会員候補のうち6人を首相が任命拒否したのである。学術会議は拒否の理由を説明すべきだとの要望書を提出。メディアや野党は「学問の自由を侵害するもの」と早くも大上段に振りかざして攻撃の構えを見ている。菅首相は「法律に則って適正に処理している」と言葉少なに語るのみ。加藤官房長官は「政府として判断させていただいており、判断を変えるということはない」と説明。森友・加計学園問題や桜を見る会で問題となった説明責任がまたしても反故にされそうな雰囲気だ。順調にスタートを切った菅政権だが、任命を拒否した理由を説明しないまま、安倍政権がひきずっていた“負の遺産”も引き継ぐのだろうか。今週は国会の閉会中審査も予定されている。任命拒否の理由を国民にも分かるようにきちっと説明すべきだろう。

日本学術会議は学者や科学者の最高決定機関であり、日本の科学技術のあり方に極めて重大な責任を負っている。その会議の会員は学術会議の推薦に基づいて首相が任命すると法律に定められている。今回任命を拒否された立命館大法科大学院の松宮孝明教授は、京都新聞のインタビューに答えて次のように語っている。「『とんでもないところに手を出してきたなこの政権は』と思った。そして、『何が問題かと言うと、防衛省が多額の研究助成予算を持っている。ところが大学や学術会議は、3年前に確認したが軍事研究はやらないということを言って、あまり応募していない。その代わりに普通の研究経費を上げろと言っているのだが、政府は言うことを聞かない。政府にとってみたら、軍事研究をしろと言っているのに言うことを聞かないのが学者だと思っているはず。ここが多分、本当の問題だと思う』」と。なるほど。両者の間に以前から根深い問題があることは理解できる。だが、「どうして防衛省の予算だと拒否するのか」、学者の良心のなんたるか問いたくなる。

菅首相が任命拒否できない理由として同氏は次のように指摘する。「天皇は、国会の指名に基づいて、内閣総理大臣を任命する」。日本学術会議の会員は「学術会議の推薦に基づいて内閣総理大臣が任命する」。主語と述語は入れ替わるが、法理論的には同じ構造だという。学術会議は国会と同等の権能を持っており、天皇が国会の決めた総理大臣を任命拒否できないのと同様に、学術会議が決めた推薦人を総理は拒否できないという主張だ。なんということだ、学術会議は総理の権能を上回る絶対者だと言っている。学者というのはそんなに偉いのか。論文発表数など学者の国際的な影響力が減退している。それは目を覆いたくなるような現実だ。にもかかわらず総理は任命拒否できない、そんなことをすれば学問の自由を脅かし、憲法違反だと主張している。数年前位にあった安保法制について「戦争法案」と全否定した発想に似ている。個人的にはそんな奴は任命拒否すべきだと思う。ただし、その理由は公表すべきだ。そうしない限り、再び「いつか来た道」の消耗戦がはじまる。