中国共産党の元高官から性被害を受けたと告発した中国出身のプロテニス選手、彭帥(ポンショワイ)さん(35)の安否が懸念されている問題で、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が8日、初めて公の場で口を開いた。

 IOCは中国のスポーツ団体を介して、11月21日と12月1日に彭帥さんとオンラインで会話したと発表している。話し合いでは彼女から北京の自宅で過ごしているとの説明があり、IOCら心配している人への感謝が述べられたという。

 ただ、2回の会話の音声や動画は公表されていない。行方が途絶えた11月2日夜から、彭帥さんはテニス関係者や他の選手たちと直接連絡を取っていないことから、スポーツ界で彼女の身を案じる人は多い。

 バッハ会長は8日、理事会後の記者会見で、彭帥さんと会話した時の様子を振り返り「彼女が抑圧されているようには見えなかった。それが我々全員が抱いた印象だ」と話した。

「なぜ彭帥を尊重しないのか」

 次のIOCによるオンラインの会話にテニス関係者など第三者を入れる提案も出た。これに対してバッハ会長は「なぜ彭帥を尊重しないのか。何を優先するかは彼女に決めさせるべきだろう」と反論した。

 世界のスポーツ団体で唯一、彭帥さんと連絡を取れているIOCは、中国側を表立って批判はせず水面下で交渉する「静かな外交」の姿勢を継続している。バッハ会長は会見で「このような危うい状況で、いま最も大切なのは、彼女の身体的な無事を確保することだ。我々は、ここまでいくつかのことは成し遂げられている」と、その成果を強調した。

 一方、スポーツ界や国際社会からは、IOCの対応が不十分だという批判の声が出ている。(ロンドン=遠田寛生)