ウクライナ外務省が、首都キエフにあるアメリカ大使館員とその家族の一部を退避させた米政府を非難した。ロシアがウクライナとの国境付近に推定10万人規模の軍部隊を集結させている件で、いよいよ戦争の危険が迫っていると判断しての行動だった。
ABCニュースは1月22日、米国務省が、一部の自国の外交官とその家族について、キエフにあるアメリカ大使館から避難を認めるべく準備を始めたと報じていた。イギリスも同様の対策を講じている。ロシアのウクライナ侵攻を想定した準備だ。
これに対しウクライナ外務省は24日に発表した声明の中で、アメリカによるこの判断を「時期尚早であり過剰な警戒感の表れ」と批判した。
「最近になって安全保障上の状況に根本的な変化が起きたわけではない。ロシアによる侵略の新たな脅威は、2014年以降、一貫して存在し続けている。国境付近へのロシア軍部隊の集結も、昨年(2021年)4月に始まったものだ」と、同外務省はつけ加えた。
ウクライナが置かれた状況
ウクライナ外務省の声明は、以下のように記している。「ロシア連邦は現在、ウクライナの国内情勢を不安定化させようとして積極的な働きかけを行っている。ウクライナおよび世界各国のメディアでは現在、大量の誤情報、世論操作、フェイク情報が拡散されている。その目的は、ウクライナ国民や外国人の間にパニックの種をまき、企業を萎縮させ、ウクライナの経済的・財政的安定を弱体化させることだ。この状況においては、リスクを冷静に分析し、落ち着きを保つことが重要だ」
同省はその後、アメリカの「先を見越した外交姿勢」と、ウクライナに軍事支援を提供したことに関して、「非常に感謝している」と述べた。
ウクライナ東部国境沿いの地帯には、推定10万人規模のロシア軍部隊が集結している。欧米諸国の政府首脳との会談は行われているものの、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の翻意を促すには至っておらず、ヨーロッパで新たな紛争が起きるのではとの懸念が高まっている。
仮に実際に紛争が起きた場合、ロシアとウクライナの両国が戦火を交えるのはこれが初めてではない。 2014年には、ウクライナ国内で反政府デモが起き、親ロシア派だった当時の大統領が失脚した後、ロシアがウクライナのクリミア半島を占拠した。それ以降ウクライナ軍は、同国東部のドンバス地方で、ロシアが支援する反政府武力勢力と悲惨な紛争を繰り広げてきた。この戦闘で、1万4000人が命を落としたと推定されている。
抑制的な姿勢のバイデン政権
1月22日には、「前線の防衛部隊」向けの武器弾薬を含む、アメリカからの「軍事援助」90トンがウクライナに到着した。 ただし西側諸国が、この地域で起きる可能性がある紛争への対応に関して一致団結しているわけではない。
アメリカのジョー・バイデン大統領は1月19日、ロシアがウクライナに「小規模な侵攻」を起こした場合、北大西洋条約機構(NATO)に加盟する諸国が「対応をめぐって争いになる可能性がある」と述べ、これが失言と受け止められた。
この発言は、ヨーロッパ全土を覆う緊張感を鎮めるのにはほとんど何の役にも立たず、かえってロシアに隣国への侵攻を促すようなものだとして批判を浴びた。さらには、ヴォロディーミル・ゼレンスキー大統領を含めて、ウクライナからの反発を招いた。
アメリカ政府は、バイデンの失言によるマイナスの影響を最小限に押さえようと躍起になっている。政府関係者は、バイデン大統領が述べた「小規模な侵攻」とは、サイバー攻撃や民兵組織の活動であり、ロシア軍がウクライナ国境を越えてくる事態を想定していたわけではないと釈明した。米国務省のアントニー・ブリンケン長官も23日、ロシアに対してウクライナ侵攻を思いとどまるよう警告した。
ニューヨーク・タイムズは23日、バイデンが東ヨーロッパに1000人から5000人の部隊を追加派遣することを検討していると報じた。ロシアがさらに強い行動に出た場合には、派遣する兵士の数をさらに増員する可能性もあるという。バイデンが増派に踏み切れば、これまで抑制的だった対ウクライナ政策における大きな転換点となる。
一方でこの週末には、NATO加盟国の中での足並みの乱れが顕在化した。イギリスおよびアメリカが、ロシアの脅威にさらされるウクライナ軍を支援するという姿勢を改めて示したにもかかわらず、ドイツは、ウクライナ政府への武器供給の要請を拒否したのだ。 (翻訳:ガリレオ)