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 米アマゾン・ドット・コムが米国でホワイトカラー社員の基本給を大幅に引き上げると、米CNBCやロイターが2月7日に報じた。

■ 基本年収の上限35万ドル

 現在、16万ドル(約1850万円)としている基本年収の上限を2倍以上の35万ドル(約4050万円)にする。アマゾンは理由の1つとして、競争が激しい労働市場を挙げている。

 基本年収の他にも、入社時の一時金や譲渡制限付株式ユニットなども含まれるため、実際の支給額はさらに増える見込み。アマゾンは社員宛のメモで、「2021年の労働市場は特に競争が激しく、我々は様々な選択肢を徹底的に分析した。当社事業の経済性と優秀な人材の維持の重要性を考慮し、報酬水準を通常の年よりも大幅に引き上げることにした」と伝えた。

 アマゾンは世界の大半のポストで全体的な報酬幅を拡大することも明らかにした。「今回の引き上げはこれまでよりもかなり大幅になる」と説明している。

 CNBCによると、アマゾンは「賃金が市場の水準以下」だとして従業員から非難されていた。内部調査でアマゾンを辞めたい最大の理由が基本給の低さだと分かり、増額を決めたという。

 テクノロジー業界の報酬を調査しているレベルズ.fyiによると、アマゾンは21年、技術職の給与が多い上位7社に入らなかった。米オンラインゲーム企業ロブロックスでは21年、トップクラス技術職の年収が100万ドル(1億1500万円)を超えた。米メタ(旧フェイスブック)では90万ドル(約1億400万円)を得る社員もいるという。

■ 「柔軟な働き方」提供できなければ社員が去る

  コロナ禍で労働市場の競争がますます激化する中、労働者はより良い福利厚生と報酬を要求するようになっている。CNBCによると、在宅勤務や、在宅と出社を組み合わせるハイブリッド型勤務など、柔軟な働き方を認める企業も増えている。アマゾンなどのテクノロジー大手はこれら便益を社員に提供できなければ、優秀な人材の確保が困難になるとみて、そのリスクを認識している。

 アマゾンは先ごろ米証券取引委員会(SEC)に提出した年次報告書(FORM 10K)で、経営のリスク要因として次のように述べた。

 「現在および将来の職場環境に加えた変更は、従業員のニーズと期待に対応できない場合があり、他社の方針と比べて好感されない場合もある。その結果、有能な人材の採用および維持に悪影響を及ぼす可能性がある」(アマゾン)

 また、米インテルも年次報告書に、「競合企業は、当社の従業員を引き抜く動きを活発化させている。新型コロナの感染拡大による在宅勤務の広がりは競争をますます激化、拡大させている」と記した。

 このほか、米ピンタレストや米ペイパルも同様に、在宅やハイブリッド勤務など、より魅力的な労働条件や福利厚生を提供する競合他社に人材を奪われるリスクがあるとしている。

■ アマゾンCEO「ハイブリッド型が最も現実的」

 4社は、より柔軟な制度を設ける競合他社が自社ビジネスに重大なリスクをもたらす可能性があることに初めて言及した。これらのリスク要因に関する記述は、「進化する勤務環境が人材の獲得やつなぎ留めに大きな影響を及ぼすことを各社が認識していることを示している」とCNBCの別の記事は伝えている。

 アマゾンのアンディ・ジャシーCEO(最高経営責任者)はCNBCとのインタビューで次のように述べたという。「ハイブリッド型勤務がコロナ後の世界で最も現実的なアプローチになると感じている。全時間をオフィス勤務に戻す人はいないだろう。以前のようにはならない」(同氏)

(参考・関連記事)「アマゾン、出社は管理者が判断 オフィス再開見直し | JDIR」

小久保 重信