北海道斜里町の知床半島沖で観光遊覧船「KAZU1(カズワン)」が遭難事故を起こした。乗員・乗客26人のうち11人が救助されたが、全員死亡が確認されている。残る15人は依然として消息不明。海上保安庁などが懸命の捜査を行なっているが、現地の気象条件が悪いこともあって捜索は難航している。そんな中できのう、遊覧船の運行会社社長が記者会見を行った。事件発生から4日目。桂田精一社長は犠牲者の家族に土下座して謝罪した。テレビで中継されたこの会見の冒頭だけ見た。けさ起きてニュースを確認したら土下座は全部で3回に及んだとある。いくら土下座しても家族や遺族の“怒り”は収まらないだろう。桂田社長にいまできることは土下座することぐらいか。最果ての世界遺産で起こった海難事故。いずれにしてもやるせない。

記者会見を見ながらこの会見の意味を少しだけ考えた。朝日新聞は社会面で「『社長対応遅い』、怒る遺族」、地元「船出さない以外、あり得ない」と見出しを立てて桂田社長の責任を追求する姿勢を明確にしている。読売新聞(デジタル版)は「観光船社長『風なかったから行けると思った』…出航強行の背景、最後まで判然とせず」。朝日に比べるとやや抑えた見出しをとっている。時事ドットコムには「『意味あるのか』と不満も 社長会見に地元漁師ら―観光船事故」とタイトルされた記事が掲載されている。斜里町の30代男性漁師は「『(質問への)はっきりとした回答がなく、会見した意味があるのか』と、社長の対応に納得できない様子だった」とある。「ここの海を知っていれば、(波浪)注意報で船を出すことはしない」、元遊漁船員の指摘を取り上げて暗に社長を批判している。

その一方で、「社長は問い詰められ、かわいそうだった」と、元漁師という80代男性の同情した様子も取り上げている。メディア、視聴者の受け止め方はさまざまだろう。個人的には亡くなった11人の乗客や、いまも海の中を漂っていると思われる15人の乗員・乗客を思いながら、やるせなさだけが募った。日本は排他的経済水域を含めると世界第6位の海洋大国である。その国の海難事故の捜索が思うように進まないことに意外感がある。桂田社長は「収益のために無理に出航させたことはない」と話した。とはいえ、疲弊する地方。コロナで落ち込む観光事業。そんな事情も背景にあるのではないか。そんな気がした。けさの朝日新聞には週刊文春の広告が掲載されている。そこには「波が高くても行かせろ」、「知床“強欲一族”の罪」との見出しが躍っている。桂田氏は観光ホテルを経営する「しれとこ村」の社長でもある。気になる見出しだが、悲劇で稼ぐ文春のあくどい一面も。