ソフトバンクグループの孫正義社長が決算会見の冒頭、セピア色の1枚の風景写真を見せながら、1981年の創業当時を振り返ったのはちょうど1年前だ。福岡県雑餉隈(ざっしょのくま)という小さな町で「いつか売り上げも利益も1兆、2兆と数える会社にする」と夢を語ってから40年、その日発表した2021年3月期の純利益は日本企業としては過去最大の約5兆円を記録した。
1年後、事業環境は一変し、同社が12日に発表する22年1-3月期(第4四半期)決算は別の意味で記録的な損失になる可能性がある。韓国の電子商取引大手クーパンや中国の配車サービス大手滴滴グローバルなど、保有企業の価値が下がったためで、人工知能(AI)関連企業に集中投資するビジョン・ファンド(SVF)の業績は大幅に悪化したもようだ。
野村証券の増野大作アナリストによると、第4四半期の投資ファンド事業と本体による上場・上場発表投資先の公正価値は昨年12月末時点から180億ドル減少し、税引前損益(外部投資家持ち分除く)は約108億ドル(1兆4100億円)の赤字になったと推計している。
投資調査会社レデックス・リサーチのアナリスト、カーク・ブードリー氏も第4四半期のファンドの上場企業ポートフォリオが186億ドル減少したと分析。この額は、21年7-9月期(第2四半期)に記録した183億ドルの減少を上回るという。アジア企業の評価下落が主因で、未公開企業でも「相当な損失を出すと思われる」と投資分析情報サイトのスマートカルマに配信したリポートで指摘した。
SVFの出資先企業の多くは赤字傾向で、株価は軒並み低調。ライトストリーム・リサーチのアナリストの加藤ミオ氏は「クーパン、グラブ、ウーバーなど労働力を必要とするビジネスでは人件費が上がり、必ず必要だというサービスでもなく、インフレになると需要が減る可能性がある」という。新型コロナ感染拡大を受けた特需も今後なくなる可能性もあり、「リスクはより高くなっている」と述べた。
ソフトバンクGの損益は大部分が実現していない会計上のもの。しかし、投資会社として決算期ごとに保有株式の評価報告が求められており、相場の状況次第で浮き沈みが激しいのは宿命だ。孫社長は、同社にとって「1兆、2兆の利益だ、赤字だというのはニューノーマル」で、驚くべきことではないと主張している。
レデックス・リサーチのブードリー氏は、第4四半期のSVFの記録的な損失計上の可能性に言及し、ソフトバンクGの現状は「ノーマルとは言えない。投資家も市場も不安になり始めている」と指摘した。
ソフトバンクGの株価は、日本一の決算を発表した昨年5月12日以降、約5割下げている。孫社長は同11月に1兆円の自社株買いを発表したものの、明確な押し上げ効果は出ていない。