バイデン米大統領は1日、約7億ドル規模にのぼる対ウクライナ軍事支援の追加対策を発表した。この中にはゼレンスキー大統領が要望していた長距離砲の提供も含まれている。高機動ロケット砲システム(HIMRAS)がそれだ。航続距離は約80キロ。離れた標的を正確に攻撃できる。場所によっては国境を超えてロシアを攻撃することも可能だ。だが、バイデン大統領は提供に当たって条件をつけた。「国境を超えないこと」。朝日新聞はこの条件は「事態の激化を避けるため」と解釈している。敵はウクライナの手が届かない距離からミサイルを打ち込んでくる。ウクライナはこれに対抗する手段がない。だから長距離砲の提供を望んでいる。米国はこの要望に答えている。だが、「国境を超えるな」と条件をつける。有体に言えば米国は、軍事衝突に巻き込まれるたくないということだ。この本音を覆い隠して表現したのが朝日新聞の解釈だ。同紙はサブ見出しに「米の支援戦略、外交解決視野」とある。

このサブ見出しは朝日新聞の朝日新聞たる所以だろう。平和解決を主張するメディアの本音が見え見えだ。今回の戦争をめぐって一部には、「米国は戦争の長期化を狙っている」との穿った見方がある。戦争の長期化によってロシアが弱体化し、ウクライナへの兵器提供で産軍複合体が焼け太る。陰謀論に近い説だ。個人的にはこうした見方に組みしようとは思わないが、今回の戦争の経緯を見ていると腑に落ちないことがままある。例えば米露関係。プーチンは開戦前からバイデン大統領との直接交渉を強く要求していた。これを頑なに拒否していたのがバイデン大統領だ。その一方で、プーチンによるウクライナ侵略の緊急性が高いと、声高に叫んでいたのもバイデン大統領だ。そして米国は軍事介入しないと開戦前から公言して憚らなかった。業を煮やしたプーチンは核戦争の準備まで示唆した。大統領はこれも平気で無視した。

まるで「プーチンよ、勝手にやってください」と言っているようなものだ。核に限らず戦争に対する抑止力も完全に放棄していた。まるでプーチンを侵略へと誘っているような雰囲気だった。プーチンも安心して侵略に手を染めたのではないか。これが台湾になるとまるで違う。クワッド首脳会談を機に来日したバイデン大統領は、「台湾有事の際に軍事介入するか」との記者の質問に、はっきりと「イエス」と答えた。この発言をめぐってメディアや評論家は失言との見解を示した。これに対して一部のメディアが「計画的失言」と表現した。どちらが正しいのか、そんなことはどうでもいい。この発言で中国はある程度台湾への軍事介入に慎重になったはずだ。米大統領は事態をいかようにもコントロールできる。300キロ砲はダメだが、80キロ砲なら条件付きでO K。この武器支援はウクライナ政権ならびに無辜の市民のためなのか。ひょっとすると戦争の長期化を狙うディープ・ステートのためではないか。バイデン政権の土壌には陰謀論の蔓延る余地があるような気がしてくる。