欧州中央銀行(E C B)がきのうの理事会で7月に利上げに踏み切ることを決めた。手はじめに量的緩和措置として実施していた「資産購入プログラム(APP)」を7月1日に終了する。E Uの物価は5月に速報値ベースで前年同月比8.1%上昇、過去最高を更新した。ラガルド総裁は記者会見で「この水準は高すぎる」(ロイター)とし、「9月のECBインフレ予測でも同様の見通しが示されれば、利上げペースを加速させる必要がある」(同)と指摘した。同総裁もこれまで「インフレは一時的」との見解を押し通してきた。その総裁がインフレの実態にようやく気がついたようだ。イエレン氏やパウエル氏のように謝罪はしなかったが、これまでの間違いをようやく認める形になった。それでも黒田日銀総裁はいまだに「インフレは一時的」との見解を頑なに維持している。

世界をみてもインフレを無視して低金利を維持しようとしているのはトルコと日本だけだ。トルコの中央銀行はエルドアン大統領の強引な介入に抗しきれずに、物価が急騰する中で政策金利を引き下げるという愚策にしがみついている。中央銀行の独立性はまったく考慮されていない。日本はトルコに比べればまだ真っ当といっていいだろう。とはいえ日銀はインフレに逆らって原則毎日、無制限に国債を買い入れる「指し値オペ」を実施している。言い方は悪いがこれは、“神の手”と称する市場の調整メカニズムを圧殺する行為だ。「特別軍事作戦」でウクライナをナチから解放すると屁理屈をこねるプーチンの虐殺行為と似た匂いがする。その証拠が「家計はインフレを受け入れている」との例の発言だ。謝罪し撤回したとはいえ、この発言の裏に潜む庶民無視の体質には何の変化もない。

F R BやE C B、もっといえば黒田日銀を含め中央銀行に文句を付けたいわけではない。どうして世界中の中央銀行はインフレと真っ当に向き合わないのか、それが不思議なのだ。主要国のG D Pは6割から7割が消費によって占められている。それを担っているのは消費者だ。金持ちもいれば貧乏人もいる。それはそれとして、消費者の大層を占めているのは中低所得者層だ。インフレはこの層に最も大きな打撃を与える。この簡単な構造を理解していれば政府も中央銀行も政治家や官僚、学識経験者など主流派はもっとインフレに敏感になっていいはずだ。だがそうはなっていない。どうしてだ。エルドアン大統領をみればわかる。消費者よりも自分の権力が大事なのだ。後手を踏む中央銀行。権力者に忖度し、自分の政策の瑕疵を認めず、実体経済から目を背けている。とばっちりはいつも零細な庶民に回ってくる。ウクライナで無辜の民が虐殺される構造と一緒だ。西側にも問題は山ほどある。