赤字が続く地方鉄道のあり方を議論してきた国の検討会は25日、JRの場合、一日に平均何人を運んだかを示す「輸送密度」が1000人未満の区間などを対象に、バスなどへの転換も含め、協議を進めるべきとする提言をまとめました。
JR各社によりますと「1000人未満」の区間があるのは、全国のおよそ60の路線に上り、各地で議論が活発になることが予想されます。
全国の地方鉄道は、人口減少に加えて、新型コロナの感染拡大で利用客が落ち込んで、多くの事業者で赤字が続き、存続が危ぶまれる路線も出ています。
国土交通省がことし2月に設置した有識者などでつくる検討会は、地方鉄道のあり方について議論を続けてきて、25日、提言をまとめました。
それによりますと、JRについては、目安として1キロあたり1日に平均何人を運んだかを示す輸送密度が「1000人未満」の区間を対象に、国が中心となって沿線の自治体や鉄道事業者などが参加する新たな協議会を設置すべきだとしています。
協議会での議論は路線の「存続」や「廃止」を前提とはしないものの、利便性や持続可能性の向上が見込まれる場合には、▽廃線によるバスやBRTなどへの転換や、▽自治体が線路や駅を保有し、鉄道会社が運行を担う「上下分離方式」など、運営方式の見直しも含めて検討するよう求めています。
ただ、輸送密度「1000人未満」の区間でも、通勤や通学の時間帯に利用が集中するケースを想定し、ピーク時1時間の乗客が、上り・下りのいずれかで500人を上回っている場合は対象から外すとしています。
また、▽特急列車が都道府県庁所在地など拠点都市をつなぐ区間や、▽貨物列車が重要な役割を果たす区間も対象としないということです。
そのうえで、協議を始めてから3年以内に自治体と鉄道事業者が合意の上、対策を決定すべきだとしています。
JR各社によりますと「1000人未満」の区間があるのは、全国のおよそ60の路線に上り、各地で議論が活発になることが予想されます。
国の積極的なかかわり求める
また、提言では鉄道事業者と地方自治体の建設的な議論を促すため、国が積極的な役割を果たすよう求めています。
議論を進めるうえでは、自治体と鉄道事業者の双方が必要なデータを開示することが不可欠です。このため鉄道の存続や廃止などを含めて話し合うために必要なデータがない場合には調査や分析にかかる費用を国が支援すべきだとしています。
さらに提言では、協議会で話し合いを進めて結論が出たあとに国に求められる役割についても指摘しています。
鉄道を存続させることで合意した場合、利便性や競争力を向上させるため、新たな駅の設置や構内のバリアフリー化といった新たな施設の整備のほか、観光列車の導入などの新たな投資に対して国が財政面で支援を行うことをあげています。
一方、廃線してバスなどに転換することが決まった場合も、国が財政面で支援すべきだとしています。具体的には、新たにバスを購入するための費用や、バス専用道路の整備のほか、自治体と協力して運行費用を補助することなどをあげています。
協議会の設置 “対象に含まれない条件も”
今回の提言では、新たな協議会は、路線を「線区」と呼ばれる一定の区間に区切ったうえで、JRの路線については、一日に平均何人を運んだかを示す「輸送密度」が1000人未満を目安に設置するとしています。ただ「輸送密度」が1000人未満の区間でも、協議会設置の対象に含まれない場合の条件も示しています。
通学の時間帯に高校生などの利用が集中的するケースを想定し、ピーク時1時間の乗客が、上り・下りのいずれかで500人を上回っている区間がある場合は対象から外すとしています。
こうした場合にバスに転換すると、多くの車両や運転手が通学時間帯などに集中して必要となることから、鉄道のほうが効率的に輸送できるためです。特急列車が都道府県庁所在地など拠点都市をつなぐ区間や、貨物列車が重要な役割を果たす区間、それに、冬の積雪で道路が封鎖されるなど代替となる交通手段がない場合も対象から外すとしています。
「輸送密度」の目安は当面はJRの路線を対象にし、第三セクターの鉄道は、自治体との連携が比較的とりやすいため、新たな協議会を設置する必要はないとしています。
検討会座長「最適な交通手段を見つけ出してもらいたい」
今回の提言について、検討会の座長を務める東京女子大学の竹内健蔵教授は「どれだけ深刻な状況か客観的な物差しが必要なため、『1000人未満』という数字を目安の1つとして示したが、『1000人を超えたから安心だ』とか『1000人を下回ったから大変だ』という次元ではないことを理解してほしい。それぞれの地域にとっては第一歩でこれからが本番となるが、地域の議論をうまく進みやすくするためにも、国には全体の調整役として役割を果たしてもらいたい」と話しました。
そのうえで「これまでは鉄道を廃止するかしないかで鉄道事業者と自治体が対立しがちな面があったが地域のために何ができるのかと同じ方向を見て、連携や協調しながら考えていってほしい。鉄道を残す、残さないにしても今では多様な選択肢があるので、地域にとってどのような交通手段が最適か、しっかり協議して見つけ出してもらいたい」と話していました。
検討会立ち上げの背景は?4つのポイント
国が検討会を立ち上げた背景には、人口減少やマイカー利用の増加などにより、地方鉄道の利用者数が大幅に減る中、新型コロナウイルスがそれに拍車をかけて危機的な状況に陥っていること、さらにそうした状況に、鉄道事業者だけでなく、国や地方自治体が適切に対応してきたのかという問題意識があります。
●輸送密度の推移
1キロ当たり一日に平均何人の利用客を輸送しているかを示す「※輸送密度」。
(※文末に「輸送密度」について詳細説明あり)。
国鉄からJRに分割民営化した1987年度、新幹線を除いた輸送密度が「4000人未満」の路線の割合は、JR6社全体で36%でした。
それが、人口の減少やマイカー利用の増加などで利用客の減少が進み、新型コロナの感染拡大前の2019年度には41%に拡大。
さらに、感染拡大後は外出の自粛やテレワークの普及などで移動が抑えられ、観光客の利用も大幅に落ち込むなどした結果、2020年度は57%にまで急増しました。
中でも輸送密度が「2000人未満」の路線が多くを占め、
▽1987年度はJR6社全体で16%でしたが、
▽2019年度は30%、
▽2020年度には39%となっています。
輸送密度が「2000人未満」になると、鉄道事業者の経営努力のみでは利便性の高い鉄道サービスを保つことが困難になるとされています。
●都市部の収益で地方路線の赤字補うビジネスモデル
都市部の路線でも利用客が減り、JR東、西、東海といった経営体力があるとされてきた事業者も赤字に陥り、都市部や新幹線で得た収益で、地方路線の赤字を補うという従来のビジネスモデルが持続できないおそれも出てきたのです。
●鉄道事業者 コスト削減などで「負のスパイラル」に
検討会では、地方路線を運行する鉄道事業者は、運行本数の減便や駅の無人化といったコスト削減策や投資の抑制などで対応してきたが、それによって利便性が著しく低下し、さらなる利用者離れという負のスパイラルを起こしている路線もあると指摘しています。
●国・地方自治体 事業者任せにしてきたか
一方、国や地方自治体についても地方鉄道の現状を直視せずに事業者任せにしてきたのではないかと指摘していて、問題をこれ以上先送りせずに、国や沿線自治体、鉄道事業者が危機意識を共有したうえで、利便性、持続性の高い公共交通を再構築する必要があるとして検討会を設置しました。
これまでの議論の経緯は
検討会の議論は、ことし2月に始まりました。
<2月14日>
初会合では、有識者から「単に『鉄道を残す』ということではなく、地域の利便性を高めることが重要だ」とか「乗客が減っていて、このままの形で鉄道を維持することは非常に難しい」といった意見が出されました。
<3月3日>
2回目の検討会では、赤字経営の続く鉄道が通る自治体へのヒアリングが行われ、この中で、広島県の湯崎知事は「一部のローカル線の収支のみを問題視することは地方の切り捨てに直結する。新幹線や特急で訪れる観光客を中山間地に呼び込むためにはすべての路線を維持することが重要だ」などと主張しました。
こうした中、JR西日本は、ことし4月11日、人口減少に加え、コロナ禍で利用者が特に少なくなっている地方路線の30の線区について個別の収支を初めて公表しました。
30の線区、すべてで赤字となっていて、会社は、バス路線への転換なども含め沿線自治体などと今後のあり方の議論を進めたいとしました。
<4月18日>
このあと3回目の検討会では、有識者から、地方の赤字路線についてこれまで議論を避けてきたとして「今回議論しなければ鉄道が大変なことになる」、「路線をこのまますべて残すことは次の世代に無責任になる」といった意見が上がりました。
そのうえで、有識者からは鉄道事業者側が厳しい経営事情を示したうえで、沿線自治体側からも地域での鉄道の必要性について丁寧に意見を聞き取り、路線を維持すべきか、廃線やバスなどへの転換を図るべきか、議論していくべきだという意見が出されました。
<5月13日>
そして前回、4回目の検討会では、有識者から鉄道路線の維持について「なぜ地域に鉄道が必要か」理由を明確にできるかどうかが今後の論点になるという認識が示され、事業者と自治体の双方が問題意識を共有して協議していくためにも、国が積極的に関わっていくべきだとする意見が出されました。
利用者の声は
◇広島 JR芸備線の利用者「なくなったら不便」
JR芸備線の広島県の備後落合と三次の間は「輸送密度」が2019年度は215人となっています。この区間にある備後庄原駅の利用客からは路線の存続を懸念する声が聞かれました。
女子高校生は「私たち高校生にとって身近な交通手段なのでなくなったら不便です。私たち自身も芸備線や地域の魅力をPRして、存続につなげたいです」と話していました。
駅前からバスをよく利用するという庄原市の80代の男性は「昔はよく芸備線を使っていましたが、今は便数が多いバスに乗ります。ただ、交通機関の選択肢は多いほうがいいので、廃止にならないでほしいです」と話していました。
JR芸備線の2019年度の輸送密度は、広島県庄原市の東城と備後落合の間では11人と、JR西日本の管内で最も少なくなっています。
◇宮崎 JR日南線の利用者「残しておいたほうが利便性ある」
国の検討会がまとめた提言について「輸送密度」が1000人未満の区間がある路線の1つ、宮崎県のJR日南線の利用者からは「なんとか路線を残してほしい」という声が聞かれました。
実家に帰る際に南郷駅を利用するという宮崎市の会社員の男性は「日南市の道路は雨が降ると土砂崩れが起きてよく通行止めになるので、鉄道は残しておいたほうが利便性があると思います」と話していました。
また南郷駅の近くにある菓子店の店長は「多くの高校生が通学で使っていますし、特に南郷駅は外観をプロ野球の西武カラーに塗り替えるなど盛り上がってきていたので、なくならないでほしい」と話していました。
JR日南線をめぐっては地元の日南市もJR日南駅に市民が自由に使えるコミュニティスペースを設置するなど利用促進を図ってきました。
高橋透市長は「日南線は通勤・通学だけでなく、観光列車の海幸山幸が走るなど大切な観光資源でもあります。今回の提言については精査したうえで、県や沿線自治体と連携して対応していきたい」と話していました。
鳥取 平井知事「慎重に考える必要ある」
鳥取県では「山陰線」と「因美線」の一部区間で平時における輸送密度が「1000人未満」の区間があります。鳥取県は、今回の提言に先立つ形で、JR西日本米子支社と県東部の1市4町で地域全体の公共交通の活性化を話し合う協議会を作ることをすでに決めていて、26日、初会合を開く予定です。
今回の提言について、平井知事は「輸送密度1000人を基準に区間ごとの協議会を作るという案が示されているが、線区ごとの協議会を採用する必要はないと考えている。特定の線区の収支だけにとらわれて話をすると、廃止か存続かだけの議論になってしまう。まちづくりや沿線の活性化と組み合わせた、面的な議論が必要だ」と述べ、地域の実情に即した形でJRや沿線自治体と協議を進める考えを示しました。
そして、提言の中でバスなどへの転換も含め協議を進めるべきとしていることについては、4年前に島根県などを走る三江線が廃線となりバスに転換されたことを踏まえ「バス転換後にいろいろと問題点が指摘され、楽観的には到底思えない。学者や鉄道関係者は鉄道の廃線を前提に議論したいのかもしれないが、本当にそれが住民の利便性にかなうのか、慎重に考える必要がある」と指摘しました。
そのうえで「鉄道は国家的な財産であることをもう一度見直すべきで、国にはこれからも鉄道ネットワーク維持の意義を申し上げていく必要がある」と述べました。
JR西日本 副社長「お互いにとって一番いい答えを」
JR西日本の倉坂昇治副社長は、輸送密度が「1000人未満」の区間が協議に入る、目安の1つとして示されたことについて「一定の目安は議論を始めるにあたって必要だと伝えてきたが、その意見をくんでいただいた。数字そのものに絶対的な意味があるわけではないが、これを踏まえて、議論させていただければと思っている」と話していました。
そのうえで倉坂副社長は「鉄道事業者として、これからも、どのような形で地域の役に立てるのか、地域の皆様にとって最適な交通手段はどういうものなのか、今後も丁寧なコミュニケーションを取らせていただく。いろんなデータを共有する中で、お互いにとって、一番いい答えを出していくことが重要だ」と話していました。
北海道 JR日高線 “廃線でバス転換”
赤字が続く地方路線が廃線になった場合、懸念されるのが、利便性の低下やにぎわいの喪失です。
こうした中、バスに転換したあとも、鉄道会社が利便性向上のために協力を続けているのが北海道のJR日高線です。
苫小牧市と様似町の間のおよそ150キロを結ぶJR日高線は、80年以上にわたって地域の公共交通を支え、観光客にも人気の路線でした。しかし、2015年の高波などの被害で、全線のおよそ8割にあたる鵡川と様似の間で運休を余儀なくされ、バスによる代行運転が行われてきました。厳しい経営が続くJR北海道は、復旧費用が86億円に上るという試算を示したうえで、復旧の条件として、年間の維持費16億4000万円のうち、13億4000万円を沿線の7つの自治体で負担するよう求めました。自治体側は「負担が重すぎる」として拒否。
JR北海道は毎年10億円を超える赤字が見込まれる中、路線の維持は困難だとして復旧を断念し「鉄道を廃止してバスに転換する」という意向を示しました。
その後、沿線の7つの自治体と廃線にすることで合意し、去年4月、バスに転換しました。現在、ジェイ・アール北海道バスと道南バスの2つのバス事業者が運行していますが、住民からは鉄道の廃止を惜しむ声も少なくありません。
住民の女性は「鉄道が長年、身近な存在だったのでなくなって寂しいし、札幌や苫小牧など遠くまで移動することも減りました」と話していました。
鉄道を廃線にしてバスに転換するにあたり、重視したのは、バスの特性を生かした柔軟な運行ルートの設定です。新ひだか町にある静内高校では、およそ3割にあたる150人余りの生徒がバスで通学しています。鉄道を使って通学する場合、最寄りの駅から15分ほど歩く必要がありましたが、運行ルートを変えて学校の前にバス停を設けたことで以前より便利になったといいます。
バス通学をする生徒たちからは「すぐに学校に行けるのでありがたい」とか、「バスは快適です」など好意的な意見が聞かれました。
また、車の運転が難しくなる高齢者などの需要を取り込もうと大型スーパーや病院の近くにもバス停を設けました。
JRからの支援金を使ってバリアフリー対応型のバスも導入しました。
こうしたバスの利便性の向上に一役買っているのが、鉄道を廃線にしたJR北海道です。廃線にしたあとも協力を続ける覚書を交わし、資本関係のない「道南バス」にも乗客のデータを引き継ぎ、運行ダイヤやルート設定についてもアドバイスしたといいます。今も定期的に打ち合わせを行っているということです。
ただ、新型コロナの影響が長引く中、バス転換後の利用者は当初見込んでいたほどには至っておらず、通学時間帯を除く、日中の利用者をどうやって増やすかが課題となっています。
北海道新ひだか町の柴田隆総務部長は「町や地元のバス会社だけで議論するより交通に関する、さまざまなノウハウもあるJRと一緒に議論を続けられる意義は大きいと思っています。災害もあり、最終的に鉄道廃線を迎えたが、もともと利用者が大きく減っていたのも事実で、これからさらに人口減少も加速する中で何か手を打っていかなければ、いずれバスも撤退しかねないという危機感があります。バス事業者に加え、JRとも連携しながら、引き続き、知恵を絞っていきたいです」と話していました。
JR北海道地域交通改革部の海原邦夫専任部長は「鉄道が廃線になったことで、地域の皆さんの移動の足がなくなり、困るようなことがあってはならないと思っています。鉄道事業者として地域の皆さんからいただいたデータやノウハウの蓄積もあるので少しでも利便性を高めていけるように引き続き、町などと連携していきたい」と話していました。
滋賀 近江鉄道 “行政支援で存続決定”
地方鉄道の中には鉄道の存続と廃止についてデータなどをもとに議論を行った結果、自治体側の財政支援によって存続を決めたケースもあります。
滋賀県東部の5市5町、全長59.5キロを結ぶ私鉄の近江鉄道です。
120年以上の歴史があり、昭和40年代には年間の利用者数は1000万人を超えていましたが、マイカーの普及や人口の減少などを背景に400万人台まで落ち込んでいます。さらに、鉄道施設の老朽化で、設備を維持・更新するコストも膨らんでいることから、会社は6年前、単独で事業を続けることは困難だとして滋賀県に対して支援に向けた協議を申し入れました。
滋賀県や沿線の自治体は近江鉄道に対して、駅ごとの利用者数や鉄道施設の維持費などの経営に関する詳細な情報を提供するよう求めました。
これに対して、会社側が厳しい経営環境を理解してもらうために必要だとして、情報を開示したことで課題の共有にもつながり3年前に、法律に基づく協議会が設置されました。
協議の中でポイントとなったのはコストの問題です。近江鉄道からの情報開示にもとづいて、路線の存続と廃線、それぞれにかかるコストが細かく検証されました。
その際には「鉄道を残すことで自治体が負担するコスト」と「廃線によって自治体が負担するコスト」を比較する方法で分析しました。それによりますと、廃線にした場合は車を利用する人が増えて沿線道路の交通量が増加するため道路の拡張工事の費用や、鉄道を通学で利用する高校生のスクールバスの費用などで、少なくとも年間19億円程度が必要だと試算されました。
これは近江鉄道の鉄道事業に関する年間の赤字額を上回っていて、自治体にとっては、鉄道事業の赤字を補填したほうが、経費が抑えられることが分かったということです。
この結果、滋賀県や沿線の自治体は再来年度・2024年度から線路や駅などの施設を保有したうえで維持管理の費用を負担する「上下分離方式」を導入することを決め、公的資金を投入して鉄道を存続させることになりました。
近江鉄道構造改革推進部の服部敏紀部長は「鉄道事業者と自治体が一歩踏み込んで話し合うことが重要で、そのことがまちづくりや駅前のにぎわいづくりをどう進めていくのかにもつながると思う」と話しています。
滋賀県交通戦略課の森原広将参事は「民間企業単独では維持・存続が非常に難しい状況が理解できた。また、鉄道の価値や効果を客観的なデータでみえるようにしたことで利用客以外にもその重要性を理解してもらうことができたと思う」と話しています。また、滋賀県では地域で運行されている鉄道やバスの維持費を広く税金で賄うための地域独自の「交通税」の導入について検討を進めているということです。
※「輸送密度」とは
今回の検討会で目安とされたのが「輸送密度」です。
輸送密度は、鉄道の利用状況を表すデータで、1キロメートル当たり、一日に平均何人の乗客を運んだかを示します。
同じ路線でも長い区間を乗る人もいれば、短い区間しか乗らない人もいることから、すべての乗客が乗った距離を足し1キロ当たり何人が乗車したかを計算します。
例えば、総延長5キロの路線を10人の乗客が利用する場合、一日だけで考えると、
(1)全員が始点から終点までの5キロの区間を乗車すると、10人が乗車した距離は合わせて50キロとなり、1キロ当たりの輸送密度は「10人」となります。
(2)一方、5人が始点から終点までの5キロ、ほかの5人が1キロの区間しか乗車しなかった場合、10人が乗車した距離は合わせて30キロとなり、1キロ当たりの輸送密度は「6人」となります。
実際に輸送密度を算出する場合は、1年間に客が乗った区間をすべて足した距離を、総延長の距離で割り、さらに1年間の営業日数で割ります。
路線の長さや列車の運行本数が違っても同じ尺度で比較でき、過去、旧国鉄の民営化の際には「4000人未満」がバス転換の目安の1つとされました。
また、輸送密度が「2000人未満」になると、利益を上げることが非常に難しいとされています。