英国保守党はジョンソン氏の辞任に伴う後継首相にエリザベス・トラス外相を選出した。サッチャー、メイ氏に続き英国史上3人目の女性首相が誕生する。トラス氏は元来E U離脱反対派。賛成に転じた後は強硬に離脱を主張した。サッチャー元首相を尊敬する。その意味では「強い首相」が心情だろう。世論調査では元財務相のリシ・スナク氏を終始リードしてきた。だが、ロイターによると投票結果はトラス氏が57.4%(8万1326票)、スナク氏は42.6%(6万0399票)。事前の予想に比べると予想外の接戦になった。この結果についてロイターは「保守党内の深い溝を示した」と分析する。前途多難か。だが、トラス氏は断固とした決意を胸に秘めているようにみえる。選挙中に「エネルギー価格高騰問題と将来の燃料確保に向けた計画を1週間以内に打ち出す」との方針を示していた。
その答えの一端をけさブルームバーグ(BB)が記事した。「トラス次期英首相、光熱費抑制で総額21兆円の支援策を準備-当局者」がそれ。BBのホームページに掲載されているのはごく短い記事、全体像は掴めない。ポイントは英国の典型的な家計の電気・ガス料金を現行の年間1971ポンド(約32万円)以下に抑制する支援策を策定したことだ。ブルームバーグはこの政策を実施するには、「政府支出は今後1年半で1300億ポンド(約21兆円)に上る可能性がある」と分析している。プーチンが始めたウクライナ戦争で世界中が狂乱物価に見舞われている。けさの報道によるとトルコの8月の消費者物価(C P I)上昇率は前年比80.21%に達した。まさに狂乱物価だ。英国だって例外ではない。物価急騰で家計は深い痛手を被っている。トラス氏はそこを突いて世論の支持を得た。光熱費支援だけではない。速やかなる減税の実施も公約している。
バイデン政権のインフラ、気候変動、教育投資といった政策は、規模が大幅に縮小されたものの、共和党からは「インフレを助長する」と批判されている。ハト派だったパウエルFRBB議長は強硬なタカ派に転じ、矢継ぎ早に政策金利を引き上げている。トルコのエルドアン大統領は物価を無視して利下げを実施し、世界中で好奇の目に晒されている。現下の経済問題の最たるものは、物価急騰に伴う庶民生活の窮状だ。減税やエネルギー対策は間違いなく家計を支援する。だが、やりすぎると物価急騰となって庶民に跳ね返る。トラス氏の政策は庶民にとってプラスであると同時にマイナスにもなる。このバランスをどう取るか、ここが個人的にトラス氏に注目するポイントだ。むかしサッチャーとレーガンが市場主義経済を唱えて経済危機を脱出した。トラス氏が危機に乗じて新しい政策を生み出せれば、第2のサッチャーになる可能性もある。ちなみにこの人、対ロ強硬派だ。頼もしい。
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