Augusta Saraiva

  • 「スウィフトノミクス」は需給や人気などの要素だけでは説明できず
  • コロナ禍で人々の考え方は変わった-メリーランド大カーニー教授
テイラー・スウィフト Photographer:Terry Wyatt/Getty Images

人気ポップ歌手テイラー・スウィフトのコンサートチケットを巡る狂乱は、需要と供給、極端に高い人気といった要素では理解できない「スウィフトノミクス」による解説が必要だ。

  全米ツアーのチケットを販売するチケットマスターのウェブサイトは、先週の前売り受け付け開始と同時に1400万人が殺到してクラッシュ。一般販売を停止するという異例の事態になり、限られたチケットは転売市場で急騰。最低価格4万ドル(約560万円)以上を提示する売り手も登場した。

  こうした事態を受けて、スウィフトさんはチケットマスターを厳しく批判。「スウィフティー」と呼ばれるファンからは落胆と怒りの声が上がっている。この騒動の前から反トラストの点で米司法省が同社の調査に入っていたことが明らかになり、テイラー・スウィフト現象は政府当局や議員らを巻き込む問題に発展した。

  ゴールドマン・サックス・グループが世界の音楽産業について毎年発表するリポート「ミュージック・イン・ジ・エアー」をまとめる同社アナリスト、リサ・ヤング氏は「危機の時代にコンサートは手の届くぜいたくと見なされる」と述べた。

ステージ上のテイラー・スウィフト(2017年 ヒューストン)Photographer: Frazer Harrison/Getty Images North America

  メリーランド大学のメリッサ・カーニー教授(経済学)も、子どもたちのためにチケットを買えず落胆した一人だ。「ファンにとっては、これ以上に欲しいものは存在しない」と語る。「何が本当に大切で、何が自分を幸福にするのかについて、コロナ禍は人々の考え方を変えた」と述べた。同教授は転売市場でチケットを入手する可能性を探るという。

  プリンストン大学の政治経済学教授だった故アラン・クルーガー氏はかつて、音楽産業というレンズを通した経済を「ロッコノミクス(Rockonomics)」というコンセプトで分析。16歳の若さでアルバムデビューを果たしたテイラー・スウィフトを繰り返し例に挙げ、コンサートと商品の売り上げを両方伸ばす戦略を駆使した「経済学の天才」と称賛した。 

  この教えを引き継いでカリフォルニア大学リバーサイド校でロッコノミクスを教えるキャロライン・スローン教授も、テイラー・スウィフトは単なるアーティストではなく「一つのカテゴリーになりつつある」と話す。「彼女のライブを見ることに取って代わるものはない、というのがファンの思いだ。心から見たいと思っている。私自身がそうだから分かる」と述べた。

  一方で、チケット転売市場を研究しているパスカル・クーティ教授(カナダのビクトリア大学)は、「希少性が需要を増やしているという感触を得ることは非常に多い」と指摘する。

  経済全般における最大の疑問は、金利と失業率が上昇する中でも消費が増え続けるのか否かということだろう。スウィフトノミクスは独自の世界を構成しているため、その答えを導く助けにはならない。

  メリーランド大のカーニー教授は、米経済の健全性を考える上で法外な高額チケットをめぐる現象を深読みすることには慎重だ。「大勢の熱烈なファンにとってチケットの需要というのは非弾力的な要素に近い。こうした解釈がむしろ適切のようだ」と経済用語を用いて解説した。

原題:Taylor Swift’s $40,000-Plus Tickets Teach Harsh Economics Lesson (2)
US Opened Live Nation Probe Before Taylor Swift Debacle (1)(抜粋)