きのう、日銀が金融政策決定会合で突如異次元緩和の部分修正を決定したことを受け、関係者の間で様々な議論が湧き起こっている。全ての議論に目を通したわけではもちろんない。賛成する人も反対する人もいる。それはそれで大いに結構なことだ。議論を避けるべきではない。個人的には異次元緩和に賛成できない面が多々ある。中でも一番大きいのはY C Cという手法が強権的で、市場の調整機能を抑圧していることだ。そのことはきのう当欄にも書いた。今朝目についたのはJPモルガン・チェース銀行市場調査本部長・佐々木融氏のコラム、「日銀ショックで円独歩高、その後に表面化しそうな円売りの構図」(21日5:33 配信、ロイター)だ。最後の最後に次のようは記述がある。「30年後に歴史を振り返った時、孫から『こんなことをしていたら、円という通貨が紙くずになってしまうことに誰も気が付かなかったの』と問われていることになるような気がしてならない」。

理由はともあれ、佐々木氏は心の奥深くで異次元緩和に少なからぬ不安を抱いている、そのことがビンビンと伝わってくる一文だ。同氏は国債の買い入れが急増することを懸念している。黒田氏は国債利回りの変動幅を広げ、金利が上昇することを容認する。これによって市場機能が改善すると主張。その裏で、10年国債に限定してきた指値オペの対象に2年債や5年債を新たに加え、買入額も増やしたのだ。これで来年予想される国債のネット増加分を通常の輪番オペで吸収することが可能性になるとみる。とすれば「敵基地攻撃能力」を整備するための防衛費増額を国債発行で賄うという声はますます強くなる可能性がある。「YCCはそもそもマイナス金利政策導入後に長期金利が低下し過ぎたことに対応するための政策だったが、いつの間にか金利を一定程度の水準で固定するための政策になり、それが10年以外の年限にも使われることが正当化され始めている」。知らないところで日本の危機はどんどん深まっていく。

金利が上昇しても長期国債(10年)の利回り上限は0.5%に限定されている。ロイターによると国際的に見た長期金利の実勢は米国が3.6%、英国が3.5%、ドイツが2.2%前後だ。日本との金利差は開く一方だ。日銀ショックで円独歩高になったが、佐々木氏は「市場が落ち着けば円売りが復活する可能性がある」と予想する。いずれにしても日銀は金利上昇を容認する一方で、国債をどんどん買い増すことになる。日銀の国債保有率はすでに発行総額の50%を超えている。金利が上昇すれば9月末現在で536兆円に達した保有国債に含み損が発生する。ここに株式会社・日銀が債務超過に陥る可能性が見え隠れしている。決定会合を控えて黒田氏は岸田首相とも会談している。何が話し合われたのか?一方で同氏は再々に渡って「物価は来年中に下がる」と予言する。まるで神様のようだ。そうなることを願いたいが、その見通しが外れたときにどうやって責任を取るのだろうか。同氏の任期は来年4月に切れる。