6日に発表された12月の米雇用統計の解釈が微妙に揺れている。12月分の非農業部門雇用者数は事前の予想(ロイター、20万人増)に反して22.3万人増えた。失業率は3.5%に(11月は3.6%)に低下した。これだけ見ると労働市場は累次にわたる政策金利の大幅な引き上げにもかかわらず、引き続き堅調さを維持している。本来ならさらなる金利上昇懸念を嫌気して株式市場が急落しても良さそうだが、N Yダウは6日の終値で700ドル急騰した。ロイターによると米大統領経済諮問委員会(CEA)のエコノミストのヘザー・バウシー氏は6日、「現時点で米経済が景気後退に向かっている兆候はなく、ソフトランディング(軟着陸)が可能な状況にある」との認識を示した。

金利上昇で景気後退を懸念していた株式市場が、労働市場が引き続き逼迫気味に推移指定いることを確認、「安心感」から買い方が勢いづいたということだろうか。それも一理あるだろうが、もう一つの理由は12月の賃金上昇率が前年同月比4.6%と、11月の4.8%から低下したことだ。逼迫気味だった労働市場に“雪解け”の兆しが見え始めた。リセッション懸念からソフトランディングへ。勝手に解釈を変更した市場が一方的にダウを押し上げた、こうした解釈も成り立つ。BMOキャピタル・マーケッツのシニアエコノミスト、サール・グアティエリ氏は「賃金の伸びは鈍化したが、物価安定と一致する水準にはほど遠い。FRBが2月の会合でタカ派姿勢を和らげる、もしくは利上げペースを緩めることは期待できないだろう」(ロイター)と指摘する。この通りなら株式市場は再び急落するだろう。

要するにインフレが引き続き高水準を維持している中で、労働市場はどうなっているのか。「引き続き底堅いものの、活力を失いつつあり、(なおかつ)労働者不足は依然深刻」(グアティエリ氏)というわけだ。F R Bのパウエル議長も頭が痛いだろう。米カンザスシティー地区連銀のジョージ総裁は、「インフレ率の2%回帰に向けどの程度の追加引き締めが必要かは、依然としてFRB審議の重要な側面だ」(同)と指摘する。要するに賃金よりはインフレ退治が先というわけだ。その上で「インフレと雇用のトレードオフがより明らかになるにつれ、政策当局者はより複雑な選択と難しいコミュニケーションに直面することは間違いない」と強調する。もう一つの重要指標である消費者物価指数(11月分)が12日に発表される。仮に物価が予想を上回って上昇すれば、F R Bのタカ派が勢いを増すことは間違いない。インフレと雇用のトレードオフ、間を取り持つF R Bの金融政策。2023年も波乱含みだ。