ウィル・ヴァーノン、BBCニュース(モスクワ)
ロシア国防省は11日、ウクライナ東部の町ソレダールでの戦いに、自軍が加わっていると明言した。しかしこれは、同町では雇い兵だけが戦っているとする、ロシアの民間雇い兵組織の主張と食い違っている。
ウクライナ東部ドネツク州バフムートの北約10キロにあるソレダールは、直近の戦闘で焦点となっている。
そのソレダールをめぐっては、ロシアの悪名高い残忍な民間雇い兵組織「ワグネル・グループ」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏が10日夜、「襲撃」に加わっているのはロシア軍に属さないワグネルの戦闘員だけだと主張。「ワグネルの部隊がソレダールの全領土を制圧した」とアピールした。
プリゴジン氏は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の目にワグネルを有能な戦闘部隊として映すためには、どんな勝利でも利用する可能性が極めて高い。
だがロシア国防省は、しばしば物議を醸すオリガルヒ(富豪)のプリゴジン氏の発言に対し、矛盾する主張を展開しているようにみえる。
「ロシア軍が攻撃している」
ロシア国防省のイゴール・コナシェンコフ報道官は11日、軍に関する日々の報告の中でこう述べた。「ソレダールはロシア空挺部隊によって北と南から封鎖されている」。
また「ロシア空軍は敵の拠点を攻撃している。突撃部隊は同町での戦闘に加わっている」と主張。一方で、ワグネルの部隊についての言及はなかった。
ウクライナ国防省も11日、ソレダールで激しい戦闘が続いていると発表。ワグネルの部隊はウクライナの防衛を突破できていないとした。
ソレダールが陥落すれば、プリゴジン氏にとっては追い風となるだろう。10日夜に出された声明の中で、同氏は「ソレダールにおける襲撃にワグネル以外の部隊が加わったことはない」と豪語した。ウクライナとアメリカの当局は、同地域で戦っているロシア側の部隊の大部分をワグネルが占めているとしている。
権力の中枢で何が
ロシア軍とワグネルが緊張関係にあるとの声は、以前から複数のアナリストの間で上がっていた。プリゴジン氏が、ウクライナでの戦争の実情に精通していないとされる将官たちを公に批判したこともある。
権力の中枢で内紛が起きているかどうか、正確に把握するのは難しい。だが、いくつかの手がかりはある。
ロシア国営タス通信は10日、陸軍の参謀総長にアレクサンドル・ラピン大将が任命されたと報じた。ラピン氏はプリゴジン氏が昨年非難した人物の1人だ。ロシアメディアは情報筋の話として、ラピン氏の陸軍参謀総長就任は軍に盾突くなというプリゴジン氏への警告だと伝えた。
一方で、ソレダールで明らかな前進をみせるプリゴジン氏とワグネル部隊を称賛する声も多い。ロシアメディア界の有力者マルガリータ・シモニャン氏は、プリゴジン氏がいかに「礼儀正しい」かを熱く語り、ワグネルの戦闘員を「私の可愛い子たち!」と呼んで感謝を示した。
親ロシア政権の軍事ブロガーたちも同様に、メッセージアプリ・テレグラムで同雇い兵組織を褒めちぎった。あるブロガーは、「今夜、私たちに与えてくれた感動」に感謝しているとした。
別のブロガーは、「ソレダールと(バフムートが)解放されれば、ロシア軍の歴史に新たな1ページが加わるだろう。非常に激しい軍事衝突で民間軍事会社がこのような成果を示したのは初めてのことだ」と述べた。
ソレダールの戦略的重要性については、軍事アナリストの間でさまざまに議論されている。だが、ロシア軍がこの町の完全制圧に成功すれば、ロシア政府にとって間違いなく象徴的な勝利となるだろう。昨年の夏以降、ロシア軍は戦略的に重要な町を、ウクライナ軍から1つも奪えていないからだ。
(英語記事 Ukraine battle hints at rift in pro-Russian forces)