昨日寝る前に見た時NYダウは前日比でマイナスだった。朝起きてみたらなんと同265ドル高。このところ金融市場のボラティリティーは上がっている。200ドル程度の値動きで驚くことはない。問題は先週末の米雇用統計で非農業部門の新規雇用者数が51万人強に達し、インフレ懸念が再燃した。そのあとだけに「何が起こった?」、頭がちょっと混乱しただけ。理由を調べてみるとパウエルF R B議長の発言が原因だった。同議長は昨日、ワシントン経済クラブでインタビューに応じた。金融政策だけでなく国内外の経済の先行きや懸念材料・リスクなど幅広い分野にわたって見解を表明した。その中に「2023年はインフレが大幅に鈍化する年になる」との見通しも含まれていた。ロイターによると、「これを受け、先週の雇用統計発表後に後退していた引き締め鈍化への期待が再び高まった」という。NYダウはこの発言を受けて切り返し、マイナス圏からプラス圏に急上昇したようだ。
パウエル発言を改めて調べてみた。「インフレ低下プロセスにはかなり時間がかかる」「プロセスには紆余曲折あり、さらなる利上げが必要となる可能性も」「雇用統計は予想よりかなり強い」「予想以上に強いデータが続けば、それに応じて追加利上げを実施する」などタカ派的発言が結構含まれていた。これらを無視して市場は「2023年はインフレが大幅に鈍化する年になる」「経済が堅調なため、労働市場も堅調」「雇用市場にダメージを与えずディスインフレが始まったのは良いこと」といった、都合のいい部分だけを取り出して材料にする。議長は常日頃、市場の楽観的な見通しに警告を鳴らしている。「インフレ低下にはかなり時間がかかる」との見解に対しても、「年内後半にF R Bは金利を引き下げざるを得なくなる」といった、根拠のない見通しをもとに株価を押し上げたりする。マーケットの特徴といえばそれまでだが、昨日の株価上昇も「つまみ食いマーケット」の面目躍如といったところか。
FRBと金融当局のせめぎ合いはいまに始まったことではない。慎重な当局に対して市場は常に達観的だ。「市場は今後2回の会合で少なくとも25bpの利上げを織り込んでいるが、より強気なバイアスを持つ向きはデータに基づいて、次回会合で25bp利上げを予想し、5月会合では利上げは実施されないとみている。これがきょうの市場で強気な展開が続いた要因だと解釈している」(米国の市場関係者)。なるほど。強気なバイアスと弱気なバイアス。当局と市場のせめぎ合いはバイアスの戦いでもあるのだ。そういえば将来のインフレも人々のインフレ期待に左右されるという見方が一般的だ。イエレン財務長官は「50万人超の新規雇用があり、失業率が50年ぶりに過去最低を更新した経済がリセッションに陥ることはない」と、米景気の先行きに強気な見解を示している。ひょっとするとこれもバイデン政権を支える有力閣僚としての期待値に裏打ちされたバイアスか。バイアスは一般的に「思考や行動の偏り」とか「偏向」と解釈される。何が正しいのか、世の中バイアスだらけだ。