[アンカラ 7日 ロイター] – トルコ南部が過去80年余りで最悪とされる地震に襲われ、エルドアン大統領は被災者の救助と被災地の復興という重い課題を抱えることになった。5月14日に予定されている大統領選と議会選はかねてより、過去20年間にわたり政権を牛耳ってきたエルドアン氏にとって最も苦しい選挙になるとみられており、地震への対応が選挙に影響する可能性がある。
地震発生の翌日には野党や被害の大きかった地域の一部の住民から、当局の対応が遅い、あるいは備えが不十分だったとの不満が噴出した。
政府の対応が適切ではないとか、地震多発国なのに適切な建築基準が設けられていなかったといった世論が広まれば、選挙に向けたエルドアン氏の見通しは悪化しかねない。
ただ、アナリストによると2003年の政権発足以来、地震や山火事などの自然災害に取り組んだ経験があり、選挙戦に熟練したエルドアン氏は、危機対応でむしろ国民の支持を集め、自らの立場を強める可能性もあるという。
エルドアン氏は地震発生のわずか数時間後の発言で、既に数千人規模の救助隊が動員されており、厳しい冬の状況下でも努力を惜しまないと表明した。
政府は「レベル4警報」を発令して国際的な支援を要請するとともに、最も被害が大きかった州で3カ月間の非常事態を宣言した。
コンサルタント会社のユーラシア・グループは「エルドアン氏が今回の危機に迅速かつ首尾一貫した対応を取った」と指摘。もし、トルコ政府が初動の勢いを維持できれば「5月14日の選挙を控えて、強いリーダーとしてのイメージを際立たせることができそうだ」と分析した。
<ブラックスワン>
復興費用は数十億ドルに上る可能性が高く、もともと58%の高インフレに見舞われているトルコは経済がさらに圧迫されそうだ。エコノミストによると、被災地域には1300万人が暮らしており、今回の地震で今年の経済成長は下振れする見込み。
グローバル・ソース・パートナーズのAtilla Yesilada氏は、被災地の範囲が数百キロメートル、被災者が数百万人に上るという今回の大規模な地震で、トルコの経済と政治は「完全にリセット」されると述べた。
マグニチュード7.8規模の今回の地震は、確率は低いが起きれば影響が大きいリスク「ブラックスワン」だと指摘。最も被害の大きかった地域では、選挙が実施できるかどうかさえ、まだはっきりしていないとした。
地震発生直後の段階でエルドアン氏の敵対勢力が、今回の災害を政治的に利用しようとする動きはみられない。野党6党の連合は、地震ではクルド人やシリア難民も被災しており、政府は「差別のないように」対応すべきだと訴えただけだ。
しかし、中道右派・民族主義の優良党(IYI)のUgur Poyraz事務局長によると、被害の大きかった地域を視察したが、7日朝の時点で緊急救助隊の形跡を確認できなかったという。「専門的な救援活動の連携がないのは間違いなく」、「市民や地元のグループががれきの中に閉じ込められた人々を救うため救助活動に加わっている」とロイターに語った。
当局は1万2000人余りの捜索救助隊と、それ以外に9000人の部隊が活動していると説明している。
テリマーの新興・フロンティア市場株式戦略部門のマネージングディレクター、ハスナイン・マリク氏は「今回の地震に対するエルドアン政権の対応は、無党派層の判断を左右するかもしれないが、ほとんどの有権者は既に心を決めている」と述べ、与野党ともに岩盤支持層の忠誠は揺るがないと予想した。
(Orhan Coskun記者、Birsen Altayli記者)