政府は10日、4月8日で任期満了となる日本銀行の黒田 東彦 総裁(78)の後任に、元日銀審議委員で経済学者の植田和男(71)氏を充てる方針を固めた。日銀総裁に学術界出身者を登用するのは初めて。金融政策に詳しく、国際経済に精通した植田氏に長期化した金融緩和策のかじ取りを委ねる。植田和男氏(2009年撮影)
政府関係者が明らかにした。副総裁には、日本人で初めて主要国の金融当局でつくる金融安定理事会(FSB)の常設委員会の議長を務めた、氷見野良三・前金融庁長官(62)と、マイナス金利政策などを立案・設計してきた日銀の内田真一理事(60)を充てる。
政府は14日、新しい総裁と副総裁2人の人事案を国会へ提示する。衆参両院の同意を得て内閣として任命する。衆院では24日、新総裁候補の所信聴取を行う方向で調整する。
植田氏は国際経済学が専門。1974年に東大理学部卒業し、80年に米マサチューセッツ工科大で博士号を取得した。東大教授を経て、98年4月に施行した改正日銀法に基づく初めての審議委員に任命された。再任を経て、2005年まで務めた。現在は東大名誉教授で、17年からは共立女子大教授も務める。
日銀審議委員時代は、一貫して経済情勢を見極め、自らの政策に対する意志を強く表示してきた。日本経済が金融危機からの回復過程にあった00年8月、日銀がゼロ金利政策の解除を決定した際には、植田氏は反対票を投じた。金融引き締めに動く当時の速水優総裁ら執行部の動きに対し、「デフレ懸念が再発するリスクがある」とけん制した。
一方で、金融緩和を重視する立場とも異なった。02年、日銀に対して物価の上昇率目標を掲げて金融政策を運営することを求める声が高まった際には、物価上昇に歯止めがかからなくなる恐れがあるとして、否定的な見解も示した。
日銀は13年から、物価目標2%を掲げて大規模な金融緩和を続けている。資源高ですでに消費者物価の上昇率が4%に達する中、植田氏が総裁就任後、物価目標政策をどう運営していくかが焦点となる。また、今後想定される金融政策を正常化する「出口戦略」では、金利が急騰するリスクや、それに伴う金融機関の経営不安化が懸念される。植田氏は、海外当局や金融市場への丁寧な説明も求められる。
一方、黒田氏は、13年に就任した。18年に再任され、21年秋には在任期間が歴代最長となっていた。
植田和男(うえだ・かずお) 1974年東大理卒。80年米マサチューセッツ工科大博士号取得(経済学)。東大教授を経て、98年4月から約7年、日銀審議委員。2005年に東大教授、17年から共立女子大教授。静岡県出身。