[ベイルート 14日 ロイター] – 大地震に見舞われたシリアのアサド大統領は、国際機関による支援が北西部の反体制派地域に入れるよう、支援物資を搬入できるトルコとの国境地点を増やすことに同意した。敵対する諸外国の要求に答えた格好だが、アサド氏が見返りに何を求めるのかが、専門家の間で注目されている。
アサド政権は長年にわたり、反体制派地域への国境を越えた物資支援の輸送に反対してきた。今回の地震対応は、シリアを巡る外交関係と12年におよぶ内戦にも影響を与えている。アサド氏は今回の決断で政治的な恩恵を受けたとみられ、今後さらなる政治利用を目論んでいるようにみえる。
西側の制裁を受けているアサド政権だが、近年はアラブ首長国連邦(UAE)を筆頭に、シリアとの国交を正常化したアラブ諸国からの支援に浴している。7日にエジプトのシシ大統領と初めて電話会談したとも伝えられ、アサド氏に会ったアラブの高官2人は、同氏が意を強くして一段の関係強化を目指していると述べた。
また、サウジアラビアは14日、アサド政権支配下のアレッポに初めて支援物資を載せた飛行機を派遣したと報じられている。今も同政権と対峙する湾岸諸国としては、注目すべき振る舞いだ。それまでサウジの支援は、反体制派地域までしか届いていなかった。
一方で、トルコの高官によると、同国は国連の支援がシリアの政権支配地域に行けるよう、国境地点1カ所を再開する案について検討中だ。長年敵対してきた両国が、接触を増やす措置になるかもしれない。
米国はアサド政権との関係再開の可能性は排除しているが、地震の支援に関するあらゆる取引を180日間の期限付きで承認した。平時ならば制裁によって禁止されていたことだ。
米政府は以前から、制裁は支援を阻むものではないと表明してきた。
この決定以降、シリア通貨ポンドは上昇した。
冒頭のアサド氏の決定は、3カ月間にわたって支援物資を搬入できる国境地点を2カ所増やすという内容。米国は国連安全保障理事会に、これらの国境地点を承認する決議を求めていた。
現在、国連の支援は、安保理決議で認められた1カ所を通って届けられている。アサド氏は数年前にトルコ国境の大半について支配権を失っているが、同氏が承認したことで、国連機関は新たな決議無しでも新設の2カ所を通れるようになると外交筋らは説明した。
<舞台裏で手打ちか>
シンクタンク、センチュリー・インターナショナルのフェロー、アロン・ルンド氏はアサド氏の決断について、最近のシリアには珍しいと指摘。「舞台裏でアサド氏が見返りに何かを得るという手打ちがあったか、もしくは彼が善意を誇示する好機だと判断したのだろう」との見方を示した。
「これらの国境地点を一定期間開いても、アサド氏は実質的に何も失わない。だが、批判を免れ、自分が国境へのアクセスを意のままにできることを見せつけられる」という。
米国務省のネッド・プライス報道官は、13日の記者説明で「アサド体制は、人道支援に使う国境地点の追加設置に一貫して反対してきた。しかし、今回の決断が本気であり、その言葉を行動に移す意欲があるのなら、シリア国民にとって良いことだ」と語った。
シリアの国連大使は先週、支援は政府と協力して行われる必要があり、トルコ国境を通してではなく、シリア国内から支給すべきだとの政府見解を繰り返していた。
アサド氏は14日、赤十字国際委員会(ICRC)の総裁と会談し、政府としては支援がシリアの全被災地に届くことを望んでいると述べた。
シリア国民は地震前から、10年以上続く内戦によって厳しい人道危機に苦しんでいた。政権派と反体制派の対立により、多くの死者が出たとされる反体制派地域を支援する試みは、少なくとも2回阻まれている。政権が支配する地域も大きな被害に見舞われた。
<アラブ諸国の支援に期待>
UAEはシリアに5000万ドルの支援を約束しているが、どの地域を支援するかは明らかにしていない。UAE外相はシリアの首都ダマスカスを訪問した。
シリアは、内戦が激化した2011年にアラブ連盟から締め出された。だが、アサド氏がロシアとイランの支援を得て多くの敵対勢力を破ると、イスラム教スンニ派が支配する一部アラブ諸国は、シーア派主体のイランの影響力に対抗する上で、アサド政権との関係再開が役立つとみるようになった。
10年前にシリアと断交したチュニジアは今回の地震発生後、アサド政権との関係を強化すると表明した。
米政府は、アサド政権との関係修復・正常化の動きに反対意見を唱えている。内戦中に政権が残虐行為を行ったことや、政治的解決に向けて前進する必要があるとの理由からだ。
アサド氏に会ったアラブ筋によると、同氏は「アラブ諸国がシリア支援のために結集」し、「包囲(制裁)を断ち切る」ことを期待している。
しかし、アナリストらは米国の制裁が今後も、シリアとの商業関係構築を望む国々に歯止めをかけ続けるとの見方を示した。
(Tom Perry記者、Ghaida Ghantous記者、Laila Bassam記者)