植田日銀総裁候補ならびに副総裁候補2人の所信聴取は24日に衆院で、27日と28日には参院で実施される。衆院での聴取は想定通りの内容で、特段のサプライズはなかった。とはいえ、新総裁のもとで日本の金融政策が正常化に向けて歩み出しそうな期待感は滲み出ていたような気がする。同じ日に植田総裁候補のスタッフを務めた井上哲也氏(野村総研シニア研究員)が書いたコラムがロイターに掲載されていた。タイトルは「日銀新体制に期待される『非伝統的金融政策』」。正副総裁候補の所信表明よりも期待が持てる内容という気がした。新生日銀が取り組むべきこと。それは「日銀の金融緩和(異次元緩和)にもかかわらず、国内の民間資金の流れが活性化しなかった理由を明らかにすることである」。痛く同感した。黒田異次元緩和は大量に国債を買い、金利をYCCという手法で強権的にゼロに抑えつけた。でも大量に蓄積された民間の資金は“滞留”したまま動かなかった。どうして?これこそが新体制が解明すべき課題だろう。
日本には2000兆円を超える個人金融資産と500兆円を超える企業の内部留保がある。外貨準備は1兆ドルを有に超えている。日本円に換算すれは135兆円をはるかに上回る。国(GPIF)が管理する年金資産は2000兆円近い。外為特会やGPIFの年金資産には莫大な含み資産が発生している。にもかかわらず岸田政権が声を大にして訴えているのは民間企業による投資だ。黒田総裁が推進してきた異次元緩和の目的も投資の拡大にあった。準備預金を積み上げ金融をジャブジャブにすれば、金融機関の貸し出しが活性化して民間企業の投資が増えるはずだった。だが企業は、極端なことを言えば、内部留保を積みますだけで投資にはそっぽを向いたままだった。企業に変わって国が国債を発行、投資の代替業務を推進した。結果的的に巨大な財政赤字が累積し、財政健全化を目指して今度は増税を実施する。異次元緩和と緊縮政策が同時に進行した。何をやっているのだろう、誰もが疑問に思っていた。
井上氏はこれを次のように説明する。「国内では『カネ余り』が定着し、金融機関が貸出先の確保に苦労する中で、スタートアップの企業では依然として資金調達の制約に直面するケースが少なくない」、「人口減少等を背景とした家計や企業の期待成長率の低下や研究開発の停滞によるイノベーションの不足、低金利環境や規制強化による金融機関のリスクテイクの阻害など、(中略)民間資金の流れを不活性化した原因についての理解は共有されていない」。その上で以下のように指摘する。「日銀に求められることは、まずは、長期的に国内の民間資金の流れが活性化しなかった理由を明らかにし、その理解を政府や金融業界と適切に共有することだ」。異次元緩和と大きな声で叫ぶだけでなく、データを分析し原因を知り、それを官民で共有する。それが本当に必要な「非伝統的金融政策」というわけだ。納得。
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