日銀がきのう発表した「債券市場サーベイ」(2月調査)によると、債券市場の機能度に対する市場参加者の見方を示す機能度判断DIはマイナス64に悪化した。前回11月調査(マイナス51)からさらに後退し、調査を開始した2015年2月以降で最低を更新した。要するにこれは債券市場が市場としてほとんど機能していないことを意味している。日本は市場機能をベースにした自由経済によって成り立っている。そう思っていたのだが、債券市場はどうやらそうではないようだ。昨年12月、日銀は市場機能の改善を狙ってYCC(長短金利操作)の変動幅を0.25%から0.50%に拡大した。黒田総裁は当時「これは金融引き締め策ではなく、市場機能の改善策だ」と説明していた。11月調査で機能度判断DIがマイナス51に悪化したことを受けた対策だった。にもかかわらず2月調査で市場機能はさらに悪化した。ここにYCCの最大の問題がある。

ひとことで言えば、YCCが市場機能を阻害しているのだ。欧米をはじめ世界の中央銀行は市場機能を活用しながら、知恵をだしあって金融政策を推進している。これに対して日銀は市場機能を強権的に制約しながら異次元緩和を進めてきた。「失われた30年」といわれる。日本は過去30年以上にわたってデフレ体質に悩まされ続けてきた。それを改善するための手段が異次元緩和だったが、10年に及んだ黒田体制で起こったこと、それは債券市場の破壊だった。そう断言するのは言い過ぎだろうか。日銀の2月調査は日銀自体の政策ミスを反映しているように見える。後継の総裁候補となった植田氏も国会での所信聴取で、「YCCは当面継続する」との方針を表明している。とはいえ、10年国債に重点を置いている操作対象年限を3年から5年に短縮する方式を示唆するなど、現行方式を全面的に容認しているわけではないようだ。おそらく時間をかけて修正に動くのだろう。

市場はYCCの撤廃を見込んでいる。その市場と植田新総裁はどうやってコミュニケーションを図っていくのか、これからの注目点の一つでもある。デフレ体質から脱却するために、YCCのような強権的な金融政策が必要だったのかもしれない。過去の金融当局の判断が間違っていたと言いたいわけではないが、10年かけて目標にたどり着けない政策に固執しすぎた嫌いは拭えない。先週末の米国10年国債の利回り(金利)は4%である。日本は0.5%。ここまできてしまうと金利差3.5%を一気に縮めようとすると、金融市場は相当混乱するだろう。混乱を最小限に抑えながら市場機能を回復させる。針の穴にラクダを通すような難事業だ。ロイターによると日銀当局は「さまざまな市場データや市場参加者へのヒアリングを通じて丁寧にフォローしていきたい」と述べたとある。要するに黒田総裁ができなかった市場との対話、これを密に行う、これも一つのやり方だろう。