[東京/ソウル 31日 ロイター] – 半導体メーカー世界最大手の韓国サムスン電子が、後工程の試作ラインを日本に新設する方向で検討していることが分かった。日本には素材や製造装置の企業が集積しており、最先端の技術を開発する上で連携しやすいとサムスンはみている。事情に詳しい関係者5人が明らかにした。

回路の微細化が極限まで進んだ前工程に比べ、半導体を最終的に完成させる後工程はまだ進歩の余地が大きく、競争力強化に向けて半導体各社が技術開発に注力し始めている。サムスンが日本に後工程の試作ラインの設置を決めれば、半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)に続く動きとなる。

関係者5人によれば、サムスンは前工程で出来上がった集積回路を用途に適した形に製品化する「パッケージング」のための試作ラインを設置する方向で検討を進めている。神奈川県横浜市の自社研究所近くで建設地を探しており、うち関係者1人によると、時期を含めて詳細はまだ確定していないが、投資規模は数百億円を見込む。

サムスンが試作を含めて生産ラインを日本に設置するのは初めて。関係者の1人によると、計画はまだ初期段階で、サムスンは様々な選択肢を検討している。

別の関係者は、日本を候補地とする理由を「人件費が安い上、有力な製造装置・素材メーカーが多く、エコシステム(企業同士の協業や連携)をつくりやすい」と説明する。

サムスン電子の広報担当者はロイターの取材にコメントを控えた。

ウェハーに回路を形成する前工程は各社が莫大な資金を投じて線幅の微細化を進めてきたが、微細化技術の進化は限界にきており、後工程で集積回路に新機能を追加する需要が高まっている。データセンターや次世代通信技術などに対応した先端的なパッケージ技術が求められる中、サムスンは後工程市場に力を入れるため、昨年の組織改編でパッケージ技術の研究組織として「アドバンスド・パッケージチーム」を新設した。

競合他社もパッケージング技術への投資を積極化している。昨年6月には日本政府主導でTSMCを誘致し、茨城県つくば市に研究開発センターを開設。半導体チップを積み重ねて処理能力や電力効率を高める3次元実装技術に必要な材料や装置の開発を進めている。総事業費370億円の約半分に相当する190億円を日本政府が支援した。

日韓は両政府が3月3日に首脳会談を開催。第2次世界大戦中の元徴用工問題などを巡って悪化していた関係は改善に向かいつつあり、岸田文雄首相と尹錫悦大統領は安全保障環境が悪化する中、戦略物資である半導体の供給網強化に向けて協力することで一致した。尹大統領とともに来日したサムスンなど韓国財界の首脳は日本の経済界首脳と面会している。

(白木真紀、Lee Joyce 編集:久保信博、David Dolan)

関連情報

▽情報BOX:半導体製造装置の輸出規制、対象品目と企業への影響<ロイター日本語版>2023年3月31日11:23 午前

▽アングル:中国、半導体人材の獲得強化 米規制で需要急増<ロイター日本語版>2023年3月30日4:07 午後