Marianne Bray

[香港 17日 トムソン・ロイター財団] – 企業が環境配慮しているかのように見せかける不正行為「グリーンウォッシング」について、アジア太平洋地域で取り締まりの強化を求める動きが強まっている。韓国では1月、虚偽や誇張した環境配慮を掲げる企業に罰金を科す法案を域内で初めて立案。企業の環境配慮の取り組みを巡る信頼性や、温暖化ガスの排出を実質ゼロ(ネットゼロ)にする目標に対する監視の目が厳しくなっている。 4月17日、企業が環境配慮しているかのように見せかける不正行為「グリーンウォッシング」について、アジア太平洋地域で取り締まりの強化を求める動きが強まっている。写真は地球のイラストが描かれたマスクを着ける女性。昨年9月、韓国ソウルで撮影(2023年 ロイター/Kim Hong-Ji)

韓国では同法案立案に先立つ2021年、液化天然ガス(LNG)事業で「CO2排出ゼロ」をうたったことはグリーンウォッシュにあたるとして、韓国大手コングロマリットであるSKグループ傘下のエネルギー大手SK E&S社が提訴された。

韓国環境省は2022年3月、事実に基づいた広報を行うよう同社に警告。同社側は最終的に、豪州北部のバロッサガス田事業について「低炭素」であるとウェブサイト上の表現を修正した。

この画期的な提訴を行った環境活動団体の「ソリューション・フォー・アワー・クライメート(SFOC)」で法務責任者を務めるハ・ジヒョン弁護士(35)は、以前は韓国石油精製大手のエス・オイルで顧問弁護士を務める化石燃料擁護派の立場だった。

「巨大ガス事業は環境に深刻で不可逆的な影響を及ぼす。『CO2排出ゼロ』という(SK E&S社の)主張とは真逆だ」とハ氏は指摘し、「環境に配慮した化石燃料というのは寓話に過ぎず、矛盾している」と断言した。

SK E&S社にコメントを求めたものの、返答は得られなかった。

トムソン・ロイター財団が運営するニュースサイト「コンテクスト」が同省に取材したところによると、韓国のグリーンウォッシュ規制法案には最大2300ドル(約31万円)の罰金が科されるとの記載があり、2023年上半期中に成立される見通しだと述べた。

ハ氏は法案について、罰金は少額であるものの、これまで政府が「行政指導」だけで石油精製や鉄の大手企業のグリーンウォッシュを取り締まってきたことを考えれば、大きな変化の兆しといえると指摘する。

「タバコの広告が消費者の誤解を招く表現をやめたように、同様の規制と適切な罰則によってグリーンウォッシングを防ぐことができるはずだ」とハ氏は話す。

「2050年までにネットゼロを実現させるためには、商慣習も変えていかなければならない」

グリーンウォッシングは世界的に注目を集めている。昨年の国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)では専門家らがグリーンウォッシュのまん延に警鐘を鳴らしたほか、現在は国際機関のもとで新たなESG(環境・社会・企業統治)の評価基準の策定が進められている。

アジア太平洋地域では、ESG投資や環境負担の少ない商品を求める声が増加していることが調査で判明している。豪州では、証券投資委員会(ASIC)がグリーンウォッシュに対して初めて罰金を科した。香港とシンガポールは、より厳格なESG規則を持つ「グリーンファイナンス」のハブを目指して競い合っている。

投資会社マシューズ・アジアの副社長でESG部門のトップであるキャサリン・コリンズ氏はこのように分析する。

「グリーンウォッシュに対する取り組みが行われているのは、欧米諸国だけではない。実際アジア圏内では、米国より早く動いている国も複数ある」

<つぎはぎだらけの企業情報開示基準>

低炭素化への移行を加速させる機運が世界的に高まる中、グリーンクレデンシャル(環境配慮に関する信頼性)を売り出すファンドには数兆ドルもの資金が流入している。

シンクタンクの世界資源研究所(WRI)によると、世界の総排出量の80%を占める90カ国以上がネットゼロ達成に向けた公約を打ち出している。

世界全体でグリーンウォッシュ抑制への動きに拍車がかかる一方、金融や環境の専門家からは、ESGや持続可能性に関する基準が複数存在するために、合意を得ることはおろか、定義を擦り合わせることさえ困難だとする指摘も挙がる。

欧州連合(EU)や米国はそれぞれ、企業の情報開示規則を策定。20カ国・地域(G20)会議傘下の国際サステナビリティー基準審議会(ISSB)は2月、気候変動と持続可能性に関する2種類の規則を支持すると表明し、2024年に移行の開始を目指して「グローバル基準」を承認した。

ESGの専門家はこの基準について、最終的に義務化されるかどうかは各国政府の判断に委ねられているものの、企業に気候変動対策を経営の中核に据えることを強く促し、グリーンウォッシュを取り締まる姿勢を示すことができるとした。

「商品がサステナブルで、全てをリサイクルでき、環境にやさしいものだと発信するのは企業主体であってはならない。そうした商品の宣伝は慎重に管理されるべきだ」と持続可能性に関するデータを提供するESGブック社でESG規制に関する調査を行うインナ・アメシェバ氏は指摘する。

アメシェバ氏は、これは銀行やアセットマネジメント会社にも当てはまると続けた。

「もし気候変動対策ファンドやETF(上場投資信託)を販売する場合、通常の商品として売るのではなく、その方法を正当化できなければならない」

最近では2月、米コンサルティング会社マーサーが、スーパーアニュエーション(退職年金)基金の投資オプション7件に持続可能性に関するグリーンウォッシングの疑いがあるとして豪企業規制当局から提訴され、これまでにないケースとして注目を集めた。

ASICによれば、この「サステナブル・プラス」のオプションは「化石燃料を使用していない」として売り出されていたものの、実際には炭素集約型の化石燃料を採掘・販売している複数企業の株を保有することになっていたという。

マーサーの広報担当者はASICに協力していると明かしたが、裁判中であることを理由にそれ以上のコメントを控えた。

これとは別に、豪競争消費者委員会(ACCC)は先月、グリーンウォッシュの可能性に関して247社を対象にオンライン調査を実施。半数以上が自社の環境配慮評価を巡って「懸念すべき主張」をしているとの結果を発表した。

同委員会は声明で、科学的な報告や、透明性のあるサプライチェーン(供給網)の情報、信ぴょう性のある第三者からの認証など、企業には環境配慮や持続可能性に関する主張を裏付ける証拠を提示する義務があると述べた。

Reuters Graphic

<ESG規制とグリーンウォッシュへの罰則>

英バークレイズのアナリストが1月に述べたところによると、2020年から22年の間にアジアのグローバルESGファンドの市場占有率は4%に倍増した。

世界で最も急成長で、化石燃料消費量でもトップに立つアジア太平洋地域では、香港からインドに至るまで多くの政府が、持続可能性や透明性、反グリーンウォッシュ規制を実践し、改善に取り組んでいるとESGの専門家らは評価した。

資産運用会社ロベコが先月公表した報告書によれば、アジア太平洋地域にいる投資家の57%が気候変動対策を行わない場合や他のESG関連問題があった際の政治的圧力や法的措置への懸念を示しているという。欧州では63%、北米では40%だった。

大手会計事務所のKPMG香港支社でESGの実践を指揮するパットニー・ウー氏は、金融ハブの香港やシンガポールでは、現地の証券取引所に上場している企業にESG情報の開示を義務化しており、これが新たな規則設置の促進につながっていると説明する。

「当初は純粋なコンプライアンスへの意識からスタートしたが、現在は市場の関心を集める中で多くの企業がより良いESGレーティング(格付け)を得られるよう尽力している」

調査会社ESGブックによると、アジアの9カ国が東南アジア諸国連合(ASEAN)の枠組みとは別に環境配慮と持続可能性の指標を設けた「サステナブル・ファイナンスのためのタクソノミー」を提案しているという。

アメシェバ氏は現在では同地域でもESGレーティング評価を行う団体に対して規制の導入が始まったと指摘。同じ企業が複数の団体からESGスコアの評価を受けるなど、評価手法が様々にあった「ワイルドウエスト(西部開拓時代の無法地帯)」の時期は過去のものになったと述べた。

法律事務所会社クリフォード・チャンスの最新の報告書によると、ESGの専門家らはグリーンウォッシングに対する罰則が導入された例は地域内ではもまだ少ないとしつつも、こうした厳格な対応は開示や規制に関する要件が増えるに従って増加すると考えられるという。

「豪州では、規制当局が不正確なグリーンクレデンシャルを提示している企業に対して行動を取る動きが活発化している」 とクリフォード・チャンスのパートナー、ナオミ・グリフィン氏は指摘。

「アジア地域では状況は異なるが、こうした関心が高まりつつある」

KPMGのウー氏やコープランド&パートナーズのアン・コープランド最高経営責任者(CEO)ら、複数のESG専門家は、近いうちにアジア太平洋地域でも同様の動きが加速するだろうと声をそろえる。

「持続可能性について事実と異なる主張をすれば、評判や経営、法的な問題へと波及するのは時間の問題だ」とコープランド氏は語った。