[3日 ロイター] – 韓国の研究チームが先週、夢の素材とされる常温常圧超電導体を作り出すことに成功したとする論文2本を公表した。実用性を持つ超電導体の発見という大ニュースにソーシャルメディアは沸き立ち、中国と韓国の株式市場では一部の銘柄が値を上げた。

ただ今回の論文はまだ検証が不十分な上に、常温常圧超電導体は発見が報じられても後でそれが否定される流れが何度も繰り返されてきただけに、科学者は慎重な姿勢を崩していない。

超電導体とは電気抵抗ゼロで電流を流すことができる物質。開発されれば送電中にエネルギーが失われる送電網に革命をもたらすだけでなく、電気抵抗が計算速度の制約になっているコンピューター用半導体などの分野の飛躍につながる。

超電導体は既に医療用の磁気共鳴画像装置(MRI)や量子コンピューターの一部などに使われている。しかし超電導の特性を発揮するのは極低温のときに限られ、幅広い分野で実用化される段階には至っていない。

韓国研究チームの論文2本は、正式な査読や出版に先立って科学者たちが研究結果を共有するウェブサイトに掲載された。その後、少なくともアメリカの2つの国立研究所と中国の大学3校を含む世界中の研究者が論文に掲載された素材について研究を進めている。

韓国の研究チームによると、この素材は室温で超電導の特性を示した。研究チームは「LK―99」と呼ばれること素材の組成方法も明らかにしており、それはアパタイト鉛と呼ばれる比較的一般的な鉱物を用いて、そこに少数の銅原子を導入するというものだ。

論文の執筆者はいずれもロイターのコメント要請に応じなかった。

複数の物理学者はロイターの取材に、常温超電導体が存在し得ないという物理法則が存在しないことや、韓国の研究チームが示した素材は生成が容易で、他の研究者が早ければ今週中にも結果を出すことができるはずである点は朗報だとの考えを示した。

他の研究者が韓国チームの実験を再現できれば、開発の成功が証明される。

少なくとも中国の大学3校の研究者が最近、LK―99を組成したと発表。華中科技大学のチームはLK―99が磁石の上に浮いている様子を撮影したビデオ映像を投稿した。

しかし曲阜師範大学のチームによると、この素材は超電導体にとって必須である電気抵抗ゼロの特性が見られなかった。また中国の東南大学のチームによると、電気抵抗ゼロを測定したが、その際の温度は摂氏マイナス163度だったという。

韓国の専門家は3日、検証委員会の立ち上げを発表した。

ビル・ゲイツ氏が創設した「ブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズ」のエリック・トゥーン氏は、名高い研究所による査読と実験再現の努力に注目している。「超電導を実証するために必要な測定は非常に難しい」と言う。「もし論文が正しければ大変革をもたらすが、検証が増えるまでただ辛抱強く待つしかない」と語った。

<科学者も錯覚>

LK―99で厄介なことは、超電導の世界では最初は有望視されながら精査されると失敗が明らかになる物質がたくさんあるということだ。研究者の世界には「未確認飛行物体(UFO)」になぞらえた「未確認超電導物体(USO)」という言葉さえある。

アルゴンヌ国立研究所の物理学者、マイク・ノーマンは、「USOの歴史は古く、超電導体を発見したと思ったのにそうではなかったという著名人もいる。科学の世界とは何につけてそうだ。優秀な人でも錯覚することがある」と話す。

ノーマン氏は今回の論文には難点があるとみている。急いで投稿したことによる誤植もあったかもしれないが、それ以上に問題なのは超電導状態にあるときとそうでないときに素材がどのように動いたかを示す、広い温度範囲にわたるデータが不足していることだという。

ローレンス・バークレー国立研究所の固体物理学者シネアド・グリフィンは氏、米エネルギー省のスーパーコンピューターを使って当該の素材をシミュレーションした。その結果、アパタイト鉛に銅原子を挿入すると、素材の原子が予想外の再配列を起こし、既存の超電導体に似た物質になることが分かった。しかしこの特性を生むためには銅原子を本来なら行きそうもない場所に配置する必要があり、大量生産は難しいかもしれないという。グリフィン氏は自分のシミュレーションには限界があるとくぎを刺している。

LK―99が常温常圧超電導体であることが証明されたとしても、どの程度実用性があるかを判断するにはまだ時間がかかると、オーストラリアのモナシュ大学の物理学教授、マイケル・フューラー氏は指摘する。例えば、この物質が超電導体としてどれだけの電流を流すことができるのかに関するデータが得られていないが、これは送電網の能力向上にとって重要だ。

それでも超電導体は未知の部分が多く、ありふれた物質から偶然発見される可能性もあることを考えれば、今回の論文は研究の価値があるというのが、フューラー氏など物理学者の見方だ。

アルゴンヌ大のノーマン氏は、「世の中にはまだ研究されていない鉱物が無数にある。そしてこうした鉱物にはおそらく非常に興味深い物理特性が隠されているにちがいない」と話した。

(Stephen Nellis記者)